『黒い時計の旅』 スティーヴ・エリクソン

 Takemanさんのところで言及されていたので読んでみた。
 ご指摘の通り、情念に満ちた物語である。何人かの主人公の視点で語られるが、メインは出生の秘密を知り、家族を惨殺して逃亡し、果てはナチ高官(誰なのかは明らかだが、最後まではっきりとは書かれていない)付きのポルノ作家になるバニング・ジェーンライトの話である。一読ではもうひとつ全体像がつかめなかったが、島と本土を行きかう船上のいずれも見えなくなる場所、<20世紀の地図>など想像をかきたてるイメージが随所に見られる。フォークナーの影響下にあるというのも興味深い。改変歴史ネタが使われているのは20世紀を人間の内面から再構成しようとする試みなのかもしれず、それだけ20世紀への思いが強く感じられる。それだけに(あくまでも個人的な感想だが)読み時を外してしまったかもしれないとも思った。再読ないし、他作への挑戦を考慮中。