『レベル3』 ジャック・フィニイ

 異色作家短篇集も読まなきゃ。
 ジャック・フィニイといえば時間もののSFファンタジイで知られ、本編にも多くそういった作品が収められている。作品に登場する過去はあくまでも柔らかく、懐かしさに満ちている。ただ、そのノスタルジアは「ここではない、いつか」あるいは「ここではない、どこか」を強く希求するもので、単純に過去に戻りたいというよりも、もっと切実さが感じられる。細部の書き込みが緻密なのも、そのあらわれのような気がする。解説の恩田陸氏の指摘通り、導入が大変巧みな作家だが、同様に日常世界に非日常世界が入り込むプロセスも実に上手い。(○が面白かったもの)
 
 「レベル3」 もちろん今となっては基本過ぎるネタだろうが、小道具が生き生きと描かれているところが興味深い。
 「おかしな隣人」 ちょっと変わった隣人夫婦には秘密が。これもよくある話だが、その夫婦の描写のちょっとしたところが絵になるんだよな。
 「こわい」○ 割とストレートなSF、といっていいかな。後半に著者の思いがあふれているように思われるがどうだろう。オレも昭和にワープだ!<それはCKB
 「失踪人名簿」○ これもネタとして王道も王道だが、テンポや風景描写など短編のよさが見事に凝縮されている。名作。
 「雲のなかにいるもの」 寂しい男チャーリイは電話で知り合った女性と待ち合わせ。こんな話久しぶりに読んだな。時にはいいものだ。
 「潮時」○ アパートで幽霊を見た男の話。これはなかなか渋い。好みでは集中No.1かな。
 「ニュースの陰に」 新聞社を舞台にしたコメディ。こんなのも書いてるんだ。
 「世界最初のパイロット」 老人が昔の戦争の話をはじめる。彼が体験したことは。主人公の語り口が楽しい。
 「青春を少々」 雑誌の恋愛小説を読む、平凡な男と女。ふとしたきっかけで、二人は初めて出会うことになるが・・・。「雲のなかにいるもの」と同じ設定。二人のもどかしい感じが、嫌みなく描かれている。  
 「第二のチャンス」 クラシック・カーに魅せられた男は、廃車同然の名車を復元する。これも時間もの。p219でのタイム・スリップした男のためらいがいい。著者は繊細に過去というものを抽出しようとしおり、その意識がでたのではないかと推察される。
 「死人のポケットの中には」 高いビルの窓から書類が外に。主人公は結局外に取りに出る。そのまんまの話。でもね、筆力がすごくて読ませるわけ。フィニイの底力を知った。