『夏の涯ての島』 イアン・R・マクラウド

 ようやく読了。読了までに時間がかかったものの全体としてはけっして読みにくいと言うわけではないいい短編集だ(時間がかかった理由は下記)。出版社や装丁や表題作の内容などからともするとクリストファー・プリーストとイメージがかぶりそうだが、資質としてはアイディアの比重が大きくよりSF王道といった趣きで、こちらも十二分な個性と力量を持った作家である。基本的には全作水準が高い。

「帰還」 帰還した宇宙飛行士。だが、再開した妻との会話はどこかよそよそしく・・・。奇抜な話とはいえないがしみじみとした味がいい。
「わが家のサッカーボール」 90年代SF傑作選にも収録の傑作。それぞれが変身してしまう不思議な一家という優れた導入からこれまた叙情的な物語が描かれる。
「チョップ・ガール」戦時下、空軍補助部隊員となった“わたし”だが、つきあう兵士は不運にみまわれるという不吉な女<チョップ・ガール>だった。これまた正統派ないい短編。
「ドレイクの方程式に新しい光を」 SETIにのめり込む科学者トムとその恋人の出会いと別れ。トムは元SFファン。ああ誰ですか!もう泣いてるのは!
「夏の涯ての島」 1940年あたりのイギリスを舞台にした改変歴史もので個人の視点から描かれる、ってどうしてもアレとイメージがダブる訳だが、設定の妙や起伏に富んだストーリーで全く違う傑作に仕上がってるので皆様ご安心を!むしろ問題は、完全版である長編が今後翻訳で読めるのか気になるってことの方。
「転落のイザベラ」
「息吹き苔」 さて最後の2作はなかなか難しい。いずれも<10001世界>という未来史の作品らしいが、今のところこの2作だけとのこと。そのためやはり背景はちょっと分かりにくく、現時点では評価困難(実際読むのに時間がかかった)。それでも作品背景の説明を少なくして奥行きを出そうとする意欲は感じられるし、宗教色が強く残酷だったり苦かったりするこの世界のイメージは魅力的で、いつか読み直してみたいと思わされる。ちなみに前者は修道院もの、後者はアラビアンテイストの青春ものといった感じ。

 最後の2作を含めいずれもよく練られたアイディアと情感のバランスがとれていて作者のポテンシャルの高さが感じられる。