『寄宿生テルレスの混乱』 ムージル

 全寮制の男子校で学校生活を送る主人公テルレス。知性的なテルレスは、不良グループに気に入られ仲間になる。彼らは気の弱い美少年バジーニに目をつけ、いじめの対象にする。ティーンエージャー特有の不安定な性衝動をかかえ、彼らと行動を共にするテルレスは・・・。
 100年以上前の小説だが、普遍的なテーマであり特に違和感はなく読んでいくことが出来る。かなり観念的な小説で(解説にクンデラの話も出てきてなるほど)、主人公の思索が丹念に追われているのに対して少々まどろっこしい感じがするのも事実で(こういう小説は)苦手だという読者もいそうだが、思春期がきちんと丁寧に描かれているともいえる。思春期についてのこうした文学らしい文学を久しぶりに読んだなあ、というのは個人的な感想。
 主人公の高踏的な思索の一方で、出来事だけをみるとかなりヒドい事が起こっていて、そうした観点からみるとけっして後味のいい小説とはいえない。ただ(少々ネタばれ)、テルレスの決意をこめた教師に向けての告白が事態とともに冷淡に事務的に処理される結末はなかなかに皮肉であり、こうした思春期の情景を社会の側からも客観的に描出しようとした印象が伺える。