『泰平ヨンの回想記』 スタニスワフ・レム

 ベイリーのロボットものを読んだらレムのユーモアものを読みたくなって積読本に手を出した。これはたしか出先(広島だったと思う)の古書店でレムの文庫が安く並んでいたので何冊かまとめて買ったんだな。10年くらい前かな。
 閑話休題。泰平ヨン、初めて読んだ(よく考えるとわれながらずいぶん長い積読だ)。どんなシリーズかよく知らなかったので、同じく積読していた『泰平ヨンの航星日記』の方が先なのに、薄いからこっちを手にしてしまった。でもこれはこれで軽い短編集で、とっかかりとして悪くなかったかもしれない。宇宙を冒険した泰平ヨンが地球での様々な出来事を中心に思い出を語るといった趣向。そっけなく番号だけつくられた第一話から八話と「宇宙を救おう(泰平ヨンの公開状)」の全九編といっていいだろう。そのうち第一、二、三、四、七話はとある発明家やら博士やらのつくった機械や装置に驚かされるという実に素朴なつくりの話である。もちろんアイディアには広がりのあるものがあるし、異色作家短篇集のような三話と七話は楽しい。ただ形式のみならずネタのかぶりも目立ち、結局古めかしさも目についてしまう。それから最後の「宇宙を救おう」は奇妙な宇宙生物に関するジョーク集といった感じで、楽しめるがまあその程度。
 ということで前置きが長くなったが、それ以外の作品が読みどころだということが言いたかったのである。それでは面白かったものの感想へ参ります。
・第五話 泰平ヨンが宇宙の旅から帰ってきたら、地球では二大洗濯機メーカーの激しい販売競争が巻き起こっていた。この競争がとてつもないスケールに発展してく大ボラぶりがたまらん。オチもいい。レム最高。一部は航星日記とオーバーラップするようだ。
・第六話 精神を病んだロボットたちの話。実は全体としてはそれほど大した作品じゃないんだけど、「自然を破壊しなくてはならない!」と主張する男はインパクトたっぷり。
・第八話 いきなり「この話を粘土板に刻んでいる」という導入部に爆笑。根本のアイディアは今となっては多少無理がある気がするが、いやいやどうしてどうして。スケール感のあるこれまた立派なホラ話、十分に堪能したよ。
 というわけで、未読の方は第五話と八話をぜひ読んでみてください。

※そうこうしていたら『泰平ヨン航星日記改訳版』なるものが出るらしい。持っている元のやつを読まないうちに出ちまった。遅読者の悲しみというやつである。(2009 8/2追記)