J・G・バラード逝去

 自伝でも末期癌であることを告白していたというバラード。
 享年78柳下毅一郎さんの映画評論家緊張日記から)。覚悟はしていたが、やはり辛い。個人的には早くからバラードを理解できたわけではなかったが、ここ10年ほどは本当に重要な作家であることに気づき(それこそ柳下毅一郎さんの書評などをきっかけに)、近年の現代社会を舞台にしたミステリ的な『楽園への疾走』『コカイン・ナイト』『スーパー・カンヌ』などを中心に刺激的な読書体験を与えられた(自分にとってのバラード再入門書『殺す』は地味だが短くておすすめ)。バラードの存在は、テクノロジーが高度に発展し旧来の人間観や社会観が通用しない現代にあって、灯台のように思えた。テクノロジーと人間や社会の関係そのものを小説のテーマとして扱うのは大変難しく(扱っても根本が旧来の凡庸な小説のままでガジェットだけが新しいというだけにとどまってしまい思考実験にいたらない) 、それを長年成し遂げてきたバラードの功績は計り知れない。これからもっともっと読まれるべき作家だろう。