‘ベスト・イン・スリー・ディグリーズ ’

 昨年ノーマン・ジェイのコンピレーションを買ってから、突然フィリー・ソウルに目覚めてしまい、その後‘ラヴ・トレイン:フィリー・ソウルの全て ’を購入して、中古のベスト盤を中心だがさらに様々なグループのCDを買い続けた。その中でビリー・ポールとスタイリスティックスが特に良かったのだが、今回紹介するのは一種独特なポジションにいるグループである。名前はものまね王座決定戦ビジーフォーの得意ネタとして記憶される(古!)ような、歌謡系洋楽というか本国より日本で人気のある、どちらかといえば洋楽のファンには軽んじられやすいタイプである。実際はNo.1ヒットの‘ソウル・トレインのテーマ’もあるし、相当有名なはずなのだが、ソウルフルというよりは清潔感の漂う明るい雰囲気とストリングスを多用した親しみやすい音づくりが日本人の好みにばっちりとはまって、あたかも日本のミュージシャンのような幅広い人気を得たようだ。とにかくいろいろと面白い曲があったので、このベスト・アルバムから一部紹介(数字はCDのトラックNo.。情報はすべてCDの解説から)。
2 Dirty Ol'Man(荒野のならず者) 邦題がイイです。オリジナル・メンバーは高校時代からという彼女らはなかなか売れず、ようやく小ヒットを飛ばしたあとフィリー・ソウルの立役者ギャンブル&ハフフィラデルフィア・インターナショナルに移って、この曲がオランダ1位になりヨーロッパ進出の足掛かりとなったらしい。ストリングスとコーラスが妙に歌謡曲然としているのは、きっとこうしたサウンドをベースにしてつくられた歌謡曲をその後に聴いているためだろうが実に不思議な感じにとらわれる。
4.When Will I See You Again(天使のささやき) 74年6月第3回東京音楽祭金賞受賞作。ほどよいお色気(またまた古!)の漂う感じの曲で、ディープなソウル・ファンが難癖をつけそうだが、このぬるさがいいんですよ。
7.Midnight Train 松本隆作詞、細野晴臣作曲、矢野誠編曲、ティン・パン・アレイの演奏ということで、まんま日本のミュージシャンの曲。まあスリー・ディグリーズは妙に歌謡曲要素が強いとは思うが、元々フィリー・ソウルはストリングスを多用したメロウな味が特徴なので、結構歌謡曲っぽいものも目立つ。というわけで、解説を読んでから、日本っぽい感じがある気もしてきたが、実はあまりほかの曲と差は感じていなかった。ティン・パン・アレイ、やるな。
9.Nigai Namida(苦い涙) このCDのハイライトがやってまいりました!こちらは安井かずみ作詞、筒美京平作曲、深町純編曲。ポリス、クイーン、ベンフォールズファイヴと日本語の歌詞を歌ったミュージシャンたちが思い浮かぶが、これには敵わないだろう。典型的な恨み節の日本語歌詞を歌わせてしまう倒錯ぶりに卒倒しそうだ。オンナガシメス アイノヤリトリ ミワケツククセニ ジンセイカケテ ガケニタタセテ テヲハナスツモリ とくるんだからたまりません。矢島美容室はこの辺りがヒントだろうなあ。
12.La Chanson Populaire(恋はシャンソン) シャンソン歌手クロード・フランソワのカヴァーらしい。大仰なストリングスで素晴しくインチキ臭さい似非シャンソン。日本ではこの前の「苦い涙」のあとのシングルがこの曲だったらしい。ソウル・グループとは思えぬ展開ぶりが素晴らしすぎる。
13.Do It 今度はへヴィ・ファンクに挑戦、といってもいいような曲だが日本レコーディングためか偶然かあまりにルパン。
 むしろ最初から本国で売れなかったためにユニークな道を歩むことになったのかもしれない。様々な曲をやらされることになったのも爆発的な個性がないせいということかもしれない。歌い方も強烈に迫ってくる感じではなく、割合あっさりしていて日本人にはかえって聴きやすかったのも良かったのだろう。グループとしては息が長く、なんと7月に来日公演もある。ちょっと驚いたのは、1985年にストック/エイトキン/ウォーターマン(80年代ディスコサウンドを一手に担っていたプロデューサー・チーム。嗚呼PWL!
)とのシングルもあること。Youtubeにもあった。

 何というかどうしてもアクも個性も弱い感じなのだが、逆に力まず何でもこなせちゃうようなところもあって、この曲も普通にサウンドと馴染んでいるのが不思議だ。控え目な職人技の凄さというか、そんなところもやっぱり日本受けする感じだったり。何はともあれなかなか楽しいグループである。

※追記 ビジーフォーの物まねの方も発見。