『喋る馬 柴田元幸翻訳叢書バーナード・マラマッド』

待望の一冊だったが、7作(11作中)が既読だった(少悲)。まあしょうがないか。で、既読も再読してみたが、やっぱり不思議な話が多い。たしかに「ユダヤ鳥」「喋る馬」は超日常的な生き物が出てきたりするわけだが、それ以外の話では展開はまあ分かるがその後の登場人物の心理変化がどうにも腑に落ちないというか作者特有の世界に放り込まれてしまう。それもラスト付近で不意に、というものが多く、意外なオチというようなとらえ方もできることになる。以下未読作品について。
「手紙」 ややトリッキーな感じの掌編。ラストはどう考えればいいのか?
「ドイツ難民」 舞台は1939年。貧乏学生である主人公はアメリカに来てまもない移民たちを相手に家庭教師をしていた。生徒の一人にはベルリンで批評家・ジャーナリストだったオスカル・ガーナーがいた。勤務先で講義が出来るよう特訓をするが。後半の急展開はちょっと度肝を抜かれた。ラストには魂を揺さぶられる。傑作。
「喋る馬」 私は馬のなかにいる人間なのか、人間みたいに喋る馬なのか?という冒頭から始まる、タイトル通りの期待通りの変な話。飼い主との漫才がサーカスでの持ち芸で、そのやり取りが何ともおかしい。そしてラストは!ああなるほど!いやなるほどなのか?
「白痴が先」 障害を持つらしい息子を親戚の元へ送ろうとする父親。まさにマラマッドな貧乏叙情話。解説には「義の人」の文学をアメリカ文学に持ち込んだ功績が言及されているが、まさにそんな話。それが単なるお題目でも安易な泣かせにも走らず生き生きとした主人公たちによる時に深遠な物語として描かれているところがマラマッドの素晴らしさだ。と、書いてしまったもののその背景についてはまだ十分には理解しているとはいえず、他の作品も読んでいかなきゃ。