『ポジオリ教授の冒険』 T・S・ストリブリング

 途中まで読んでそのままになっていたことに気づいて、ようやく読了。『カリブ諸島の手がかり』のポジオリ教授シリーズ(講師だったり肩書は、あいまいのようだ)。そういえば今年も夏に読もうとしていたんだっけ。あっさり季節が過ぎてしまった。「ベナレスへの道」級の破壊力を持つ作品がないので、今一つインパクトが弱いが、まずまず楽しめた。(○が特に面白かったもの)
「パンパタールの真珠」 真珠盗難事件の解決を依頼されて。舞台のマルガリータ島はこんなとこらしい。凝ったミステリではないが、南洋の空気感がイイ感じの作品。
「つきまとう影」○ ポジオリ講師が免職された事件の顛末。どうやっても逃げられないというモータッグ氏の恐れる追跡者の正体とは。プチ<ベナレス>な、ややぶっ飛んだ作品で、報告書からはじまる構成もはまってるし、こういうのは好み。
「チン・リーの復活」 製材所の所長と週末をくつろぐポジオリ。そんな中殺人事件が起こってしまう。これはなあ。なんというかその・・・えーとうまく感想が書けないけど、素直には楽しめませんな。
「銃弾」 銃で射殺された牧場主。雇用人の黒人が容疑者となったが、その母親に無実を証明してほしいとの依頼を受ける。正統派な謎解きもの。オチがなんとも。
「海外情報」 マイアミ税関が受け取った電報にはあと三十分で埠頭に到着する船に密輸業者が乗っているとの知らせだった。検査官に請われて、船から降りる乗客のチェックをすることになったポジオリだが。『手がかり』の「亡命者たち」のポンパローネが再登場。
「ピンクの柱廊」 不動産業者である父親が助けを求めたあと失踪する夢をみた、とポジオリに訴える娘。どうやら実際に行方不明となっているらしいが、警察には内密に調査をして欲しいと言われてすまう。解説にもあるように、このシリーズではちょっと珍しいアクションあり。ミステリらしいオチもあって見せ場の多い作品。
「プレイヴェート・ジャングル」 急行列車に乗り合わせた新婚夫婦から、とある人の無実を証明する方法についての相談を受けるポジオリ。家族の過去をめぐるちょっと苦みの入った味のある話。
「尾行」○ 銀行員のサミュエルズは療養所の人間から尾行されているという。そこに入所している女性と不倫関係にあって、その女性がいなくなってしまったためであった。進行のテンポがよくオチも見事に決まっている。
「新聞」○ 「海外情報」の続編。ミステリ好きで頼まれもしないのに事件解決に一役買う出しゃばりなタクシー運転手がツボで、こっちの方が面白い。
 『手がかり』ではどの作品にも南洋の光景が広がっていて、全体の統一感があった(作品の順番も良かった)が、その辺りは本書ではややバラつきがある。また、事件の真相が分かっても必ずしも事態の解決に至っていなかったり、ポジオリが自分の判断で真相を自分の胸にとどめたりするなど、ちょっと大らか過ぎる感もある。あと巻き込まれ型だったはずのポジオリがやや普通の探偵っぽくなっているのも少々不満。まあそれでも、面白い短編率が高かったのでいいか。『事件簿』も読みたいところだなあ。