NHK-BS‘みんなロックで大きくなった’再放送

 Twitterネタの整理。ちょっと日本語タイトルがかっこ悪いけどなかなか面白かった。BBC製作の原題はSven Ages of Rockで、元々は全七回だったらしい。リクエストによる再放送分は第1回ロックの誕生、第3回パンク・ロック、第4回へビーメタル。毎回そのジャンルの原型を作った重要バンドを一つを紹介して、その影響を受けたバンドを歴史順に並べて、ジャンルの変遷を追うというパターン。一回実質50分という枠で思いきりコンパクトにそのジャンルを紹介するのだが、非常に手際よくまとまっている一方で、あまりみたことがない映像が沢山出てきて、楽しめた。ちなみに冒頭に大まかな解説をするのはピーター・バラカンマーティ・フリードマン。なるほどな人選。
 第1回はロックの誕生。ここでの中心バンドはザ・フーローリングストーンズ、エリック・クラプトンの大きく扱われているものの、全体にザ・フーの影響力を重視している印象。ピーター・バラカンが最初に指摘していたが、50年代ロックンロールがアメリカを席巻してその影響をロンドンの若者が受けながらも、1960年ごろのチャートは人畜無害なポップス中心で、世相的にも不遇だった若者たちにはフラストレーションがあり、それがロックの爆発につながったという(おぼろげには理解していたが流れが実感できた感じ)。そのフラストレーションを一番よく表現していたのがザ・フー。有名なマイ・ジェネレーションの吃音的な歌詞の部分は四文字言葉を暗示しているのは当然ながら「満足に話すことが出来ない若者が思いを巧く表現できない感じ」を表現しているという視点は初めてだった。そして目立たない存在だったミック・ジャガーローリング・ストーンズが下手ながらも自分たち流のR&Bを演奏して、次第に人気を得て成長していく。一方、本格志向のクラプトンはポップ寄りになってしまったヤードバーズに愛想を尽かし、クリームによって新たな世界を切り開く。アメリカではフォークのボブ・ディランがエレキ・ギターを手にして大騒動、コンサートでユダ!と呼ばれているシーンも出てくる(平然としていたけど、実は涙ぐんでいたって話をどっかで聞いたことがあるような)。若者たちの夢をのせたロックだったが、ウッドストックの混乱、オルタモントの悲劇(割合近い距離の画像が残ってるのを知らなかった)でその夢は崩れていく、とこの辺はまあ知っている人が多そうな話。
 ウッドストックでの話だと思うが、ザ・フーロジャー・ダルトリーが「ヒッピーとの温度差があった」というのは興味深かった。後追い世代からするとその辺の差ははっきりいって分かりにくいが、ザッパもヒッピーには批判的だった気がするので、明らかに違うノリだったのだろう。あとクリームが全員生きてるのもなんか凄い。(メタル編でブラック・サバスのオリジナル・メンバーが今も全員生きてることにもイメージ的にびっくりだったけど)
 で、第3回(再放送分では2本目)はパンク・ロック。ここでの元祖はNYのラモーンズ。そのシンプルな原点回帰のロックの影響がロンドンへ飛び火し、セックス・ピストルズザ・クラッシュが生まれる(ピンク・フロイドの既成のTシャツにI hateを自分で書いて着ていたというジョン・ライドンの話が象徴的)。マルコム・マクラレンの戦略やグレン・マトロックの楽曲の良さもあり、ファッションとともにセックス・ピストルズは見事にブレイク。より政治的でシリアスなザ・クラッシュも続く。一方NYではリチャード・ヘルパティ・スミスなど優れた詩を書くミュージシャンが登場する。結局ピストルズは曲のかけるグレンの脱退後、あのシド・ヴィシャスが加入するが周知のごとくあっけなく解散に至る。ラスト・コンサートのしゃがみこんで歌うジョン・ライドンが印象深く、インタビューでは「本当につまらないと思ったんだ。客も自分もだまされたんだと分かったんだ」といっていた(その昔、パンクのドキュメント映画‘D.O.A.’を観たとき、すっかり古びてしまったり変貌してしまったミュージシャンがある中で、ジョン・ライドンの大きく見開かれた目だけは変わらなかった。現実を射抜くような強いまなざしだけが時代を超越していた。PiLも断片的にしか聴いておらず、ファンとはいえないが、やはりロック史でも特筆すべき人物だと思う。現在は変な芸能人扱いになっているとしても)。その後音楽的な進化を遂げたザ・クラッシュがロンドン・パンクの中心になったといったまとめ。
 リチャード・ヘルはよく知らなかったけど興味が出た。あとピストルズのPretty Vacantの元ネタがABBAだったとは!グレン・マトロックは分かりやすい曲をかけるのにその後のキャリアも地味目で不遇な人だな。
 最後がヘビーメタル。最近は全く聴いていないが、実はその頃のメタル事情は結構詳しいのだ(笑)。あんまり音楽的にきちんと語られることが少ないから(ノッさんの本は珍しい例外)、新鮮だった。この回の元祖バンドはもちろんブラック・サバス。プレス工場で働いていたトニー・アイオミがギタリストとしては致命的な指の怪我を負いながら独特の奏法をあみだしたこと、プレス工場の機械の激しい金属的な騒音やホラー映画がサウンドのヒントになったことが語られる(メタルも時代背景があって生まれたのだなあ)。その後ディープ・パ―プルが登場、またレザーに鋲という現在のスタイルの元になったジューダス・プリーストが活躍。やがてジューダス・プリーストアメリカでPMRC(アル・ゴアの妻が中心であった音楽の検閲団体)によってジューダスを聴いていた若者の自殺事件について訴追されるが、真剣な顔をして逆回転のメッセージを皆で確かめているその時の裁判の映像がやたらとおかしい(当然無罪)。イギリスではその流れをアイアン・メイデンが引き継ぐ(ポール・ディアノとブルース・ディッキンスンの交代の話も出てくる。インタビューに答えるこざっぱりした普通のおじさんになった現在のブルース・ディッキンスンに笑う)。さて開祖のブラック・サバスは成功を求めて渡ったLAでドラッグにより迷走、オジー・オズボーンが脱退。一方、アメリカ西海岸ではルックスのよいモトリー・クルーなどのグラム・メタル(その頃LAメタルなんていっていた)が人気となる。モトリー・クルーとオジーは意気投合(知らなかったなあ)、大いに馬鹿騒ぎをする(笑)。そんなオジーの根性を叩き直したのがその後の奥さんである敏腕マネージャーのシャロンアーテンシャロンランディ・ローズを引き抜き、さらにその事故死後落ち込むオジーを仕切りツアーを続けさせるなど活躍に大きく貢献する。グラム・メタルもやがて飽和状態になり、よりへヴィでシリアスなスラッシュ・メタルが登場し、メタリカが台頭。しかし意外にもプロデューサーのボブ・ロックを擁してモトリー・クルーがしぶとく巻き返す。メタリカは渋々ボブ・ロックをアルバム制作に迎え、その成果はMetallicaの大ヒットに結実。といった感じの回。
 冒頭ピーターが実に気まずそうなところがおかしかった。それはともかく、従来は雑誌などでのメタルの記事なんてギターのテクニックの話か逆に全く音楽に関係ない話が多かったものだが、この番組はシャロンとかボブ・ロックとか裏方の功績やレコーディングについても触れられていたのが面白かった。オジーのリアリティ・ショウの流れはシャロンだったのか(追記 さらにシャロンの父親はブラック・サバスのマネージャー。この親子がいなかったら現在のメタル界はなかった!?)。メタリカの‘Enter Sandman’はホラーっぽいみたいで興味をそそられた。
 一本分の時間は短いので熱心なファンには不満があろう(メタルの回ではモーター・ヘッドが出てこなかったので、今でもメタル・ファンである友人たちは暴れ出しかねない。あ、その前にピーターが出てるだけでテレビにかみつきそうだ)。ただ自分のようにいろいろな音楽をつまみ聴きするようなタイプにはこういう番組は有り難い。また、思った以上にみたことが無い画像が多く、選曲や選バンドに異論がある熱心なそのジャンルのコアなファンにも十分に楽しめるのでは。