NHK-BS<ソウル・ディープ>第3回モータウン・サウンド

 こうなったら最後までいくか<ソウル・ディープ>。第3回はモータウンサウンド。1960年代の設立から方向修正への変遷を追う。今回の主人公は決して表に出てこないモータウンの仕掛け人ベリー・ゴーディ。原題はThe Sound of Young Americaとモータウンのキャッチフレーズそのまま。
 朝鮮戦争帰りで自動車製造ラインで単調な仕事をしていたデトロイトベリー・ゴーディだったが、セクシーなスター、ジャッキー・ウィルソンに曲を提供しヒットを飛ばす。しかし思うようには儲からなかったため、今度はスモーキー・ロビンソンと組んでモータウン・レコードを設立。ベリー・ゴーディの人種を超えた大きなヒット曲を量産しようとするためのシステム作りは明確で(自動車製造工場でマーサ&ザ ヴァンデラスがNo Where to Runを歌うシーンが象徴的)、優秀な作曲チームホランド兄弟とラモント・ドジャー(H-D-H)を集め、ミュージシャンに顔の利くミッキー・スティヴンソンにバック演奏のファンク・ブラザースをスカウトさせ、業界に詳しい白人バーニー・エイルズを抜擢するといった具合。そしてその成果はマーサ&ザ ヴァンデラスのDancin in the Streetのヒットとなって現われる。
 一方、シカゴにはポーランド移民の兄弟が設立し元々ブルースのレーベルだったチェス・レコードが勢力を保っていた。しかし、黒人の若い層はブルースに魅力を感じなくなっており、新たな方向性を模索する必要に迫られていた。チェスのミュージシャンはブルースあるいはジャズへの指向が強く、ミュージシャンたちにとまどいもあったが、例えばエタ・ジェイムスもストリングスを入れた白人寄りのサウンドを歌うことになり、そういったサウンドはクロス・オーバーと呼ばれていた。モータウンの快進撃の中でヒットが出ない苦しみからついにチェスはフォンテラ・バスにRescue Meというモータウンをパクった曲を歌わせるに至る(タイトルに切羽詰まった感じが出ているw)。
 さてモータウン初期の最大のスターはスプリームスであるが、当初はヒット曲に恵まれていなかった。そんな中スプリームス自身もあまり気に入っていなかったソウルフルではない歌唱の曲Where Did Our Love Goで大ブレイクする(当時のライヴァルであったエタ・ジェイムスもその軽い歌い方に嫌悪感を感じたそうだが、結果は狙い通りだったわけだ)。ただヒットの続いたスプリームスの作品も白人への迎合といった非難を受けやすい面もあり、またダイアナ・ロスにばかり脚光を浴びるようになると、元のリード・ヴォーカリストのフローレンス・バラードはうつ病となり活動に支障を来すようになり脱退を余儀なくされる(この辺は映画‘ドリーム・ガールズ’でよく知られた話)。
 そんなモータウンのポップなサウンドは1960年代前半の明るい空気感にはマッチしていたが、公民権運動の盛り上がりやベトナム戦争の泥沼化といった60年代後半の社会機運の中で現実感の無いサウンドとして批判を浴びるようになる。またベリー・ゴーディ自身もヒットや金儲け指向ばかりが目立って社会意識が薄いという非難を招いていた。さらには経営にタッチしたいスタッフの欲求が内部に亀裂を生み、ついにH-D-Hがモータウンを出てしまう。1967年のデトロイト暴動も影を落としている。
 そうした時代の空気の中、停滞していたシカゴから社会派のカーティス・メイフィールドが登場する。People Get Readyに代表される理想主義的な歌詞が多くの人々の心を掴んだ。
 これで終わりかに見えたモータウンだったが、ベリー・ゴーディはしたたかだった。ゲットー生まれといった内容を盛り込んだLove Childをスプリームスに歌わせ、巻き返しを図り、その後LAに移転して70年代に二度目の黄金期を迎える。エンディングではマーヴィンの画像は出てこないもののWhat's Going onが流れて、60年代の終焉が暗示される。
 ベリー・ゴーディの経歴がよく分かったのが大きかったかな。それからシカゴとデトロイトサウンドの対比、カーティス・メイフィールドが脚光を浴び始めるタイミングについてもよく分かった。ダイアナ・ロスはブラックミュージックのポピュラー化の象徴のような人物と考えていたので、当初軽い歌唱法には乗り気ではなかったのは意外だった(‘ドリーム・ガールズ’でもそういった描写があったが、あれは本当だったのか)。それでもそういった歌唱をきちんとレコーディング時に仕上げたというニュアンスの発言(たしかホランド兄弟のどっちか)もあり、これまではブラックミュージックのポップ化の時流に巧く乗れた人物ぐらいの印象しかなかったが、スタッフの意図をしっかりくみ取れる有能な歌手だということなのかもしれないと考えがやや改まった。
 さて、もうひとつ。そのモータウンのあったデトロイトだが昨年のGM破産騒動で新たな歴史の一ページが重ねられた。そんな話にふさわしい町山智浩さんのエッセイはこちら