NHK-BS<ソウル・ディープ>第6回ヒップホップ時代のソウル

 <ソウル・ディープ>最後は個人的には番外編(笑)、ヒップホップ・ソウルについて。録画をようやく観た。この時代については、恥ずかしながらもうついていけてない感が強いんだよなあ。現在進行形な内容を含むこの回があってこそ、シリーズ全体が生きてくるのは分かるんだけど。というわけでやや簡単に。
 最終回の主役はメアリー・J・ブライジ。1980年代チャートを席巻していたR&Bの顔はホイットニー・ヒューストン。プロデューサーのクライヴ・デイヴィスが語るように完全にソウルではなくポップとして売り出された彼女の音楽は、レーガン政権時代表面的には豊かになりつつあった黒人の空気感を体現するソフィスティケートされたものであった一方で、改善しない黒人のゲットーでの現実から遊離していたため、そうした層から非難を受けやすいものでもあった。貧しい層ではヒップホップが人々の心を掴んでいたのだ。そんな時期にアニタ・ベイカーのファンであったゲットー育ちのメアリー・J・ブライジはラッパー出身だったアンドレ・ハレルのアップタウン・レコードと契約する。その頃旧来のR&Bにヒップホップの新しい感覚を取り入れたニュージャックスイングが流行し、新しいR&Bの時代が訪れていた。メアリー・J・ブライジはその流れでショーン・コムズ(ディディ)のプロデュースでヒットを飛ばし、ヒップ・ホップにソウルフルなヴォーカルを融合させたヒップホップ・ソウルを築く。同様の手法でザ・フージーズも成功、強面と思われていたヒップホップがより一般的な層に浸透する。
 プライヴェート・ライフでのトラヴル、突然売れっ子になってしまった生活の変化などで個人的なストレスを抱えながらメアリー・J・ブライジは歌詞にストレートな気持ちを反映させ聴衆やミュージシャンの大きな支持を得ていく。結果として多くのフォロワーを生む。縮小再生産的なフォロワーが後を絶たないなか、デスティニーズ・チャイルドが登場する。デスティニーズ・チャイルドビヨンセメアリー・J・ブライジの影響を強く受けながら、新たな魅力でトップスターに上り詰め、メアリーにもその存在を認められた。
 ヒップホップのように完全にハマったわけでもないけど多少は聴いていて、時代的にも日本へ紹介された流れを見てきたようなモノはなかなか難しいな。客観視するには近すぎて、思い出で語るには遠すぎるという距離感なのかもしれない。いまやヒップホップ・ソウル系統の音楽が多すぎるような気もしてね・・・。たださすがにメアリー・J/ブライジはちゃんと聴いてみようとは思った。個人的にはハードロックとの融合が衝撃的だったRunDMCの登場、P-Funkにハマってから聴いたギャングスタ・ラップ、日本においては大好きだったビブラストーンといったあたりが自分でのヒップホップ体験になるかな。
 その他雑記。『リズム&ブルースの死』のネルソン・ジョージが当然ながら出ていた(読んでませんが)。質は高いけどバブル時代らしさが漂うという印象しかなかったアニタ・ベイカーの楽曲をメアリー・J・ブライジが歌ってデビューに漕ぎつけてるというあたりの意外性は、なかなかメディアを通じての音楽情報だけでは関連を見抜くのは難しいと感じる。ホイットニーの音楽は全体を通して否定的に扱われる内容になっているが、‘コズビー・ショウのように当たり障りのない’といった発言があり(誰のかは忘れた)、間接的にビル・コスビーが揶揄されていた。どうやら公民権運動世代のビル・コスビーが若いギャングスタ・ラッパー周辺の品のない言動や黒人同士での殺伐とした抗争に苦言を呈したことが背景にありそうだ。
 ああそうだ最後に、このシリーズのオープニング映像がまさにソウルフルでカッコいいっす!