『エコー・パーク』 マイクル・コナリー

 以前から気になっていたマイクル・コナリーの人気シリーズ、“ハリー・ボッシュ”。老後に取っておこうかと思っていたが(笑)、とにかく面白いものを読みたくなったので手に取った。なるほどこれは評判通りで、まさに巻を置く能わず。大満足。

 ロス市警のハリー・ボッシュは犯人を捕まえることにかけては人一倍情熱的な正義感の強い刑事だが、その分時には周囲を省みずに突き進んでしまうまさに一匹狼の男である。そんな彼に、エコー・パーク地区で偶然逮捕された連続殺人の容疑者についての情報が飛び込んできた。車に女性二人のバラバラ死体を載せていた容疑者は、死刑免除を交換条件として過去の九件の殺人事件について自供を行うというのだ。その九件の一つはボッシュが長年追っていたものだった。

 いきなり連続殺人事件の犯人を登場させ、おやっと思わせておいて、その後にサスペンスフルな展開を用意するというわけなのだが、これが鮮やかな手さばきで実にスムース。背景にある市議選が見事な伏線になっていて謎解きもきっちりしているし、アクション、人間ドラマと全方位で楽しめる。おそらくそれを支えているのは細部のリアリティだと思う。使われる小道具、実際のロスの地理(よく知らないけど)、立場の違う各登場人物の様々な思惑、様々な現代らしい描写(例えばマスコミや病院)など非常に丁寧に描かれている感じだ。全体としてハードボイルド的な味わいを現代に蘇らせているような印象があるが、おそらくこれは非常に難しいことをやっているのだろうと思う(あんまり詳しくないのですけどね)。人間ドラマ的な側面はシリーズの他を読むと一層楽しめるんだろうな。また読んでいこっと。