『ぼくらが夢見た未来都市』 五十嵐太郎/磯達雄

 twitterで@yamagimaさんとelekingさんのオススメに従い購入。
 読んで驚く。これってそのまんまSF論の本じゃないか!
 未来都市のイメージは意外に昔と変わっていない。上海万博でも相変わらず「超高層建築群と、その周りを高架式の列車やエアカーなどの新都市交通システムが行き来する」ものらしい。本書の内容はそんなある意味変化することのない未来都市像について、実際に行われた日本の万博や都市計画といったリアル面と小説・漫画・映画といったフィクション面かの両面からそのルーツにあるものや今後の方向性などを明らかにしていくもの。リアル面・フィクション面が交互に章立てになっている。そしてこのフィクション面は実にマニアックといっていいSF論になっている。
 まずリアル面だが、大阪万博を中心に1950年代から芸術家や建築家によっていかに万博そして都市計画が形成されてきたのかが描かれる。都市計画などについては全くの素人なので結構難しい部分があったのでどうしても著名建築家たちの目指すものや争いといった部分に目がいってしまうのだがそれが面白い。こうした都市計画を司る専門家たちのヴィジョンのスケールの大きさ、また実際の社会への影響力の強さをはじめて知る。その上でそうした人々が高次の争いを展開するのだから見事というか空怖ろしいというか(自分たちも小市民もそうしたヴィジョンに翻弄されるわけだからなー)。でもSFファンの様なテクノロジーやスケールのでかい話に興味がある人間には、都市計画は非常に魅力的な世界だなあと思う。
 さてフィクション面はそれこそトマス・モア『ユートピア』やオラフ・スティーブルドン『最後にして最初の人類』から昨年の映画‘サマー・ウォーズ’まで多ジャンルの沢山のSFが言及されている。テクノロジーを扱うフィクションであるのがSFの特徴だが、そのテクノロジーの集約である<都市>をキイワードにしたこのフィクション面のパートは必然的に本格的なSF論になる。その中で、明るい未来が提示されるのとそれほどタイムラグがなく暗いディストピアが早期から提示されていたという指摘は重要だと思う。中にはあまり知らない作品も登場しており、そのマニアックぶりにSFファンとしては多少笑ってしまうようなところもある(こんなのSFファンだってあまり読んでいないよ!みたいな)。それぐらいディープな論考であるが、もちろん大変刺激的で面白い。
 最後に個人的な雑感。1967年生まれの当ブログ主もそうした高層建築群とエアカーによる「未来都市」を小学校の頃(3〜4年ぐらいだったろうか)絵に描いた記憶がある。いかにそのイメージが浸透していたかということと時代的に未来都市を絵に描くといった授業が当たり前のように行われていたということを感じさせられる。また大学生の頃(1980年代末)に都市論が花盛りだったようなことも思い出した。ただ本書は面白かったものの、個人的には万博に興味がなく、大阪万博と世代的にすれ違ったどころかつくば博すら行ったことがない。一方こんな人もいる。数ヶ月前に乗ったタクシーの運転手は大阪出身で、小学生時代には万博会場が近所だったこともあり夏休みは毎日出かけたそうだ。そして現在は浦安市に住んでいるという。浦安市のことは本書で取り上げられているわけではないが、人工的な都市計画という面ではやはり万博と共通するものがあるのではないだろうか。たった一人のエピソードでは確固としたことは何もいえないのは当然だが、偶然とはいえないものを感じ、その時現代社会が大阪万博と地続きであるという思いを強くしたのである。