『玻璃の天』 北村薫

 出先で読む本が無くなったので、購入。直木賞を取った『鷺と雪』と同じ主人公のシリーズらしい(本書はシリーズ第二弾)。まだ読んだのは2冊目だけど世評通り力量のある作家だと感じる。

 昭和初期。主人公は上流階級の好奇心旺盛なお嬢さん。(なぜか)博識で頭脳明晰な女性お抱え運転手<ベッキーさん>と身の周りに起こった謎を解決していく。

 テイストは以前読んだ『空飛ぶ馬』の<円紫さん>シリーズと同じで、若い娘が優秀なアドヴァイザーと身近な出来事を解決していくといったパターン。ただこのシリーズは時代特有の事物にも楽しみがあるのでさらに読みどころが多い感じ。しかも次第に戦争の影が忍び寄るところがミソで、その辺のちょっとシリアス味倍増も味わいが増す。古典など幅広い事物への造詣の深さがミステリの謎解きとしっかりリンクいるし、ある意味作家の理想形ですね。基本的に人をアジるような押しつけがましいところはなく全体として穏当な空気感が特徴なんだけど、表題作での与謝野晶子に関する話とかさりげなく鋭い指摘が現れるところなんかも心憎いほど。
 うっかり第二弾から読んだが、『街の灯』『鷺と雪』も読まなきゃ―。

※追記 登場人物たちの言動がやや現代的過ぎるところは確かにあるかなとは思う。まあこれも当然意識的にだとは思う。シリーズ全体を通すとその意味がはっきりするような予感。