『バッキンガムの光芒 ファージング?』 ジョー・ウォルトン

 さてファージング最終巻。
 今回の舞台は1960年。相変わらず抑圧されたイギリス。主人公カーマイケルは監視隊(イギリス版ゲシュタポ)の隊長になっている。もう一人の主人公はそのカーマイケルが後見人になっている18歳の娘エルヴィラ(なんとカーマイケルがお父さんになった!)。社交界デビューを目の前にして華やかな空気に包まれていた彼女だったが・・・。
 表の顔は監視隊の隊長でありながらユダヤ人を海外に移住させるカーマイケルは当然危うい立場にいる。そこに何も知らない愛する(事実上の)娘がからんでという話。登場人物たちの紹介もそこそこにたちまちサスペンスフルな展開が待ち受け、ぐいぐい惹きつけられる。伏線も毎度のことながら綺麗に回収される。とにかく見事なストーリーテリングで、シリーズ全体を通してもテンションが持続していた。ナチスの勝利した暗い管理社会を描いているのに全体を通して主人公たちが前向きなのもこの作品の大きな魅力となっている。多少ラストがあっけない感じもあったが、どの巻も一級のエンターテインメントだ。また改変歴史物に女性やゲイといった視点を打ち出して、新風を吹き込んだ傑作としても記憶されるだろう。
 この人、資質的にはミステリや冒険小説が本領と思ったがファンタジーも多いようだ。少々意外だが芸風が広いのかもしれない。