『ミステリウム』エリック・マコーマック

奇想短編集『隠し部屋を査察して』で知られるマコーマックのミステリ長編。主人公マックスウェルは新聞記者見習いの学生。ブレア行政官からの依頼で、軍に封鎖された田舎町キャリックの取材に行く。そこでは恐るべき事態が起こっていたのだ・・・
この紹介じゃよく分からん!ということなかれ(笑)。キャリックで起こったことがまず最初の謎、そこから次々謎が展開されていくのがこの小説なのだから。そういう意味ではまったく正統的な本格ミステリの展開をしているのだが、一筋縄ではいかない。ところどころ配される動機追求への疑問など、ミステリにおける‘真相’あるいは‘解決’とは何かという問題提起が随所であらわれ、次第に通常のミステリから逸脱していくのだ。病におかされた登場人物の話法など奇想作家らしさもちゃんと出てくるし、レムみたいな架空犯罪学講義も楽しい。短編を得意とする作家らしく、細切れで手記を多く入れたような形式も内容としっかりマッチしている。マコーマックらしいスケールの大きい奇想は控えめだが、グロテスクで残酷な風味がいかにも著者らしい実にユニークなミステリに仕上がっている。

追記 少しずつ付け加えたくなっちゃんだよな、面白い本は大抵そう(笑)。自身の出身地スコットランドを思わせるキャリックの荒涼とした空気感もよかったな。それからサーカスをめぐる追想のシーンも奇怪で美しく印象的だった。
最初に読んだときはマコーマック作品のグロテスクだったり残酷だったりするのにあっけらかんとしたところは実際の痛みみたいなものとかけ離れすぎているように思えて強い抵抗感があったのだが、彼が書こうとしてるものがわれわれが持っている常識を超える世界だと気づいてからはむしろそれがユニークなのだと分かった。またこの作家の書くものにはそうした描写があふれているのだが、ホラー的なものやサイコサスペンス的なものとは明らかに違う独特のものだ。似たタイプの作家がいないワンアンドオンリーのひとである。