『ナボコフの一ダース』 ウラジミール・ナボコフ

長年気になっていた一冊を読了。なにせサンリオSF文庫だから、かれこれ30年か。
ベイカーズ・ダズン>で13作入っている。
正直よく分からない作品もあるが、普通の落とし話みたいなものやナボコフ流SFやら奇妙な味やら並び、モチーフもとっつきやすいものが多い。特によかったものに○。
「フィアルタの春」○ 謎めいた奔放な美女とのちょっといかがわしい関係が描かれる傑作。ヨーロッパの各地にあらわれる女はフィアルタの淡い自然描写とあいまって幻影のようにゆらめいている。
「忘れられた詩人」○ <ロシアのランボー>とまでいわれた夭折の詩人ペローフのイベントであらわれたのは本人を名乗る老人。とぼけたユーモアが楽しい。こんなのも書いてるんだ。
「初恋」○ 少年時代の淡い恋の話。これも美しい。
「合図と象徴」 精神病院に入院している息子とその両親の話。最後のあたりはどういうオチなのかな。
「アシスタント・プロデューサー」 1920年代の人気歌手の話。政治状況とかもう少し知っていると楽しめるかもなあ。
「夢に生きる人」 チョウの標本を売る男はしがない生活の中で蒐集の世界旅行を夢見る。フツーにおもろい小説だが、ナボコフもこんなものを・・・(意識しすぎか、オレ)。
「城、雲、湖」 鉄道旅行の道中の話。これもいまひとつピンと来ないなあ。
「一族団欒の図、1945年」 同姓同名の人物と間違われ集会に誘われた主人公だが好奇心から参加をすることに。人物が重なるような話はナボコフらしい気がする。
「いつかアレッポで・・・・・・」 精神的に不安定な妻とうまくいかなくなった男の話だけど、もうひとつ読み取れていないなあ。
「時間と引き潮」 記憶をたどるエッセイ風の作品。それだけではないと思うが・・・。
「ある怪物双生児の生涯の数場面」 ひどいタイトルだが結合双生児の話。デパルマやオールディスの前にナボコフがいたんだな(他にもありそうだが)。
「マドモアゼルO」○ 少年時代の家庭教師の話。印象的な女性が登場するものの方がより楽しめる感じ。
「ランス」 SFがお嫌いというナボコフが彼ならではのSFを書いた、というとしかられるかしらん(いちおう宇宙人とかでてくる)。

読んでいてナボコフに多少距離を感じる一つの理由はヨーロッパの貴族出身ゆえの(日本人庶民との)生活スタイルの違いのせいでもあるかな、とも思った。ちょっと悲しいな(苦笑)。

※追記 いくつかの短編の最後には「イサカにて」と書かれている。これはニューヨーク州イサカのことだろうか。小学校一年の時にニューヨークに一年いて、その際に行ったことがある。母親の友人がアメリカ人と結婚して、湖に島を持っていて、その家族のところへ遊びに行ったのだ。イサカ自体は人口は少ないけどコーネル大学もある都市のようだが、記憶にあるのは人里離れた、日本では想像もつかないような大自然のところ。その夫婦の子ども(全然関係ないけど双子だった)と林の中を駆けずり回って遊んだ記憶がある。日本では都市部に住んでいたので、ものすごく楽しかった。湖の中の島なので、移動は船とかだった気がする(もちろん定時に出るような連絡線とかではなかったはず)。飛行機が着水する場面を見た記憶があるが、楽しすぎて記憶が盛られている可能性が高い(笑)。もちろんナボコフの記述は1950年となっているので、四半世紀ずれるのだが、豊かな自然は小説家には格好の場所だという気がする。
2014 5/6訂正 全くの勘違いが判明。母の友人がイサカに住んでいて、カナダの島を持っていて、そこに遊びに行ったようだ。ニューヨーク郊外は自然が豊かであることは間違いないが、上記の話はカナダのとある島である。あえて上記もそのまま残す。ちなみに上記の島はX islandと呼ばれたいた様だ。なんだかデス博士の島の様でもある(笑)

※2011 7/10追記 『ダールグレン』の解説にも巽先生がディレイニーの講義を受けディスカッションしたコーネル大学の話が出ており、またイサカの名前が。