『ルピナス探偵団の当惑』 津原泰水

 ルピナス学園の女子高生たちが殺人事件の謎解きをするシリーズ。
「冷えたピザはいかが」 我が強く敵の多い作家が殺害された。現場に残されたピザの空き箱の謎は。主人公彩子と好きな男子の祀島君(もちろん鈍感)のちぐはぐなやり取りがテンポよく全体のストーリーとからんでいる楽しい作品。
「ようこそ雪の館へ」 スキーに出かけた一行は道に迷い、とある洋館へ泊まる事に。そこで殺人事件が。雪に閉ざされた変な形の屋敷!密室殺人!と王道路線でくるが多少ごちゃごちゃしてるかなー。謎解きが複雑化するとどうにも置いてきぼり喰らっちゃうんだよなー。登場人物たちのやり取りはもちろんOKだけど。
「大女優の右手」 舞台女優が控え室で倒れたが、救急車がやってくるとそこに彼女はいない。その後女子トイレで発見されたときは右手が切断された状態であった。いったい何が・・・。この舞台が著者が原案として小説化した尾崎翠「瑠璃色の耳輪」ということでニヤリ。そちらも読みたくなるね。
 元はライトノベル系の文庫に入っていたものなので、登場人物たちのキャラクターや会話が楽しいやや軽めのタッチの連作だが、さすがにひねりがきいていて津原泰水ワールドが十分堪能できる。「蘆屋家の崩壊」もそうだが、古きよき探偵小説の香りが漂うのが特徴(とはえいその古きよきの方をあまり読んでいないからあくまでも印象)。また登場人物が作家、詩人、文芸作品を演じる舞台女優とブッキッシュな話が続くところも嬉しい。舞台が20世紀末(90年代後半)というのも懐かしい色があってよい。
 ちなみに後2作の物理的なトリックについてはあんまりよく理解できていない(笑)。もともと部屋がどうなって何時に誰が来てといったミステリの定番の話が出てくるとどうも苦手なんだよな。ミステリ読みになりきれない理由の一つ。まあ本書の場合それ以外の部分も面白いから全く問題ないんだけど。