『マイロン』 ゴア・ヴィダル

 『マイラ』の続編。これまた不思議な作品だなあ。
 前作で消えてしまったはずのマイラは1948年の映画製作現場にタイムリップしてしまったマイロンの中に復活、一つの肉体をめぐり<マイロンVSマイラ>による人格の支配権を争いが勃発。マイラは映画製作による性革命を目論んでいるのだ!
 タイムスリップ、人格転移など前作よりSFらしさが強い。ウォーターゲート事件人口爆発への恐怖など発表年代を感じさせる部分もある。映画による性革命といった内容もそうかもしれない。が、性革命に対する直截的なアプローチを描くSFは自分の知っている範囲では類を見ず。おそらく他の人には書けない。強気に計画を推し進めようとするマイラのハチャメチャな行動に恐れをなしてその尻拭いをさせられる気の弱い小市民マイロンのパターンでところどころ抱腹絶倒のエピソードあり、それが一番楽しめたかな。ただ映画への言及が多く、そこら辺が分からないのでもどかしい感じがしたが。
 前作以上に映画への愛情が感じられる作品でもある。著者にとっては映画はタイムマシン(ループ可能)であり、性転換装置でもある万能マシンなのではないかなあ(インタビューによると実際の仕事の経験から映画産業には失望していたようだが)。終盤ルイス・シャイナー『グリンプス』(ロックの黄金時代にタイムスリップして取り返しのつかない過去を修正しようとするSF)とオーヴァーラップするような部分もみられた。シャイナーは本作を意識していたのだろうか(なんとなく偶然のような気もするが)。

※追記
・マイラ/マイロンは原書では合本があるんだね。再刊されるならそれが望ましいなあ。性転換がテーマだから当然形式的にもぴったり。
・本作の舞台は『バビロンのセイロン』という架空の映画の製作現場だが、映画のモデルは存在するらしい→‘Siren of Atlantis’
・というわけで、その映画の主演でこの作品でも重要な役割を担うマリア・モンテスも実在の女優。