『大予言者カルキ』 ゴア・ヴィダル

 ゴア・ヴィダル1978年の長篇(16作目らしい)。
 カトマンズにあらわれたヒンドゥ教系のカルト教祖カルキはアメリカの元技術兵だったJ・J・ケリーという白人男性だった。主人公のテディは女性パイロットでゴーストライターがらみながらそのキャリアを書いた著書でちょっとした有名人。カルキからの要望で彼女は取材に現地へ赴く。

 (以下ネタばれ含みます)


 人口爆発が懸念されるなど(テディは不妊を目的として卵管切除術を受けている)現代と異なる部分があるが、マスコミでショー化されたカルト宗教、麻薬、有能な科学者による核や生物兵器によるテロ、作者らしい性テーマとあいまって実に予見的な内容となっている(本作の発表はオウム真理教の数々の事件を遡ること10数年前であり、予言者はヴィダル自身であったともいえる)。個人的にはカルトが自滅する話を予想していたのだが、なんと中心メンバーのみによる世界破滅作戦が成功してしまい、終盤は新しい人類の歴史をどうつくるのかみたいな話になる。その展開はやや早急な感じもしたが、カルトとはそういうものなのかもしれない(ただRh陰性に関する記述は正確ではないように思われ、ストーリーと大きくかかわるだけに多少残念)。素晴らしいのは人物造型の対比や敵か味方かというようなスパイ小説的演出で、現代でもそのまま映像化出来そう(女性主人公だし)。ハリウッドに好かれるのもうなづける。個人的には『マイラ』や『マイロン』のようなドタバタしたユーモアがもう少し欲しかった気もするが、上記のような点で特に前半がよかった。
 解説はP308で『草の竪琴』の著者がN・メイラーになってる(実際はカポーティ)様な明らかな誤記もあるが、本作までのキャリアが記載されており大変面白かった。