『シリウス』 オラフ・ステープルドン

1944年作の古典的な作品で、科学技術により人間に匹敵する知能を与えられてしまった犬の話。
期待以上の面白さだった。人工的に作りだされた生命の苦悩が語られることやそうした技術がほぼ一つの生命に限定されるといった部分でフランケンシュタインとかなり重なる。しかし、手が使えないためにそこをどう克服するかとか性欲の問題とか丁寧な考察がされていてそれほど古びた印象はない。またテーマとしては今や目新しくはないものの、ところどころに時代がかった怪奇幻想趣味が顔をのぞかせるのも今となってはみしろ味わい深く感じられる。実は犬というより狼小説でもあって、イギリスらしい荒涼とした風景に孤独な狼が駆けるといった要素もいい。実はストーリーテラーぶりも見事で起伏に富んだ展開は飽きさせない。
全体を通じて人間とは何かというテーマに重きを置いていることで、英国SFの系譜においてウェルズとクラークの間にこの作家が配されるのもよく分かるなようだった。