『城』 カフカ

 測量師のKは夜遅く深い雪の中とある村に到着する。城より仕事の依頼があったはずなのだが、連絡が取れない。さらにはふとしたきっかけから深い仲になった酒場の娘をはじめ周囲の人々との関係が込み入って・・・。

 主人公が常に目的のものから遠ざけられてしまう、一種コントの様な展開を示すともいえなくもない話だが、少々趣が違う。どちらかといえば主人公はプライドが高く我が強く、ずけずけと物をいい、納得できないことには妥協をしない人物である。それにより窮地にどんどん追いやられるのだが一向に堪えているそぶりも見せない。他の登場人物も我の強さと妥協の無さは似たり寄ったりで、一方と他方の主張がぶつかりながらも淡々と同じリズムで進行する展開が続く(合わない人には苦痛かもしれない)。また本作は未完であり、唐突に終了してしまう。
 そんな中で総じて描かれているのは、やはり異郷からやってきた人物の疎外だろう。理性的な個人として主人公が自己主張すればするほど、村ではよそ者に対する不寛容が増幅、仕事のような社会的側面はおろかささやかな救済である愛人との関係も同じ理由で失ってしまう。この小説の終着地点を著者はどう考えていたのか。あるいは考えていなかったのか。
 目を引く部分は何といっても、形骸化した奇妙な官僚組織とそれに従属する村人たちの姿だろう。城の中でも村との連絡を行う使者は上司に気づいてもらうまで静かに幸運を待つより他ないとか、陳情をしようにも眠っている役人、などなど絶望的だがどこか笑ってしまうエピソードが多い。