『冷血』 トルーマン・カポーティ

 映画を観る前の予備知識アップのため、カポーティ強化中。
 で、この<ノンフィクション・ノヴェル>は現代ジャーナリズムに相当な影響を与えたらしい。実際、例えば同テーマの犯罪実録本は山ほど出ていて、本書の後半での犯罪心理の分析などはありふれているとさえ感じられるものだ。もちろん逆に、カポーティからの影響が大きいともいえるだろう。膨大な資料から得られた様々なエピソードは時に重く悲しく、時に衝撃的であったり意外であったりする。それはそれこそ尋常ではないほど念入りな取材によるものなのだろう。しかし、本書はあくまで<ノヴェル>であることをうたった作家によるものなのだ。それぞれのエピソードはまさしく「事実」なのだろうが、解説にもあるように、主眼はやはり物語を描くことにあるのではないかと思われる。
 ところどころ出て来る風景描写が素晴らしいのは当然ながら、全体に細部が印象的だ。ペリーの繰り返し見る大きな鳥の夢や独房での妄想など本筋に近いヘヴィなものが迫力があるが、逃走する間に出会う空き瓶拾いの少年と病気の祖父の二人組のような傍流の話がふわりと心に残る。