『虹をつかむ男』 ジェイムズ・サーバー

 都会的な軽いタッチが特徴。
 ジャンル分けは確かにしにくい作風で、作品は多様。日常に妄想が入り込むタイトル作や「愛犬物語」「決闘」なんかは割合ふつうの形式のよく出来た小説。「空の歩道」「大衝突」「142列車の女」「妻を処分する男」「ビドウェル氏の私生活」などは夫婦の視点のすれ違いを描いたユーモアスケッチ。「ツグミの巣ごもり」「虫のしらせ」「ウィルマおばさんの勘定」などのようにやや皮肉めいたものや「ホテルメトロポール午前二時」「一種の天才」のような一風変わったミステリ(と言えなくもない)ものもある。中でも「妻を処分する男」「ピドウェル氏の私生活」「人間のはいる箱」のような奇妙なこだわりのある主人公を描いた不思議なラストのショートショートにこの人らしさを感じる。いずれにしても解説の通りあくまでも後味のエグミはない。読者はカッチリ作りこまれた作品を味わうというより、切り口や視点の転換なんかを楽しむといった感じだろうか。漫画家としても知られ、本書でも、その人懐っこい可愛い絵が楽しめる。最後にその漫画についてのエッセイも載っている。そのつくり方は悪く言えばちょっと行き当たりばったりのような印象もあり、小説でもそんな風に書いていたのかな、などと思わせる。