『エソルド座の怪人』異色作家短篇集世界篇

 異色作家短篇集は‘奇妙な味’ともよばれるように料理にたとえられることがある。様々な国の個性豊かな香味風味の調味料による料理のイメージ。そうしたことから、異色作家短篇集の掉尾を飾るアンソロジー三集のさらにトリが世界篇であるのは偶然ではないだろう。いちおう数えてみると、アフリカ(アラブ)1、西欧4、中・東欧2、アジア()1、北米1、中・南米2といった具合(マコーマックはスコットランド扱い)。やはりなかなか癖の強い作品が多く、発音しにくい作者の名前がずらりと並んでいるだけでも壮観である(変わった名前ってそれだけで面白いと思いませんか?)。以下◎が特に楽しめたもの。

「容疑者不明」(ナギーブ・マフフーズ) 不勉強ながらしらなかったノーベル賞作家。中身は切れの良い皮肉なミステリ。アラブ風味も面白い。

「奇妙な考古学」(ヨゼフ・シュクヴォレツキー)◎ 重苦しい政治状況下の失踪事件。白い頭蓋骨のイメージが頭から離れない傑作である。

「トリニティ・カレッジに逃げた猫」(ロバートソン・デイヴィス) おおこれはフランケンシュタインではないですか!ユーモラスで楽しめる。

「オレンジ・ブランデーをつくる男たち」(オラシオ・キローガ)◎ ウルグアイの作家だが話はパラグアイ。アクの強い登場人物による酒づくりの顛末。へこたれない片腕の男がいい味を出している。巻末解説での、死にとりつかれた作家本人の紹介はさらに強烈(本人は自殺、一族・友人も特異な事故死や自殺ばかりである)

「トロイの馬」(レイモン・クノー)◎ この人の名前は聞いたことはある。馬のトボけたキャラクターがいい。『文体練習』読んでみようかな。

「死んだバイオリン弾き」(アイザック・バシェヴィス・シンガー) おおこっちはエ×××××ではないですか!これは集中一二を争う癖の強さ!ユダヤ教テイストが全編に漂い、強い印象を残す。

「ジョヴァンニとその妻」(トンマーゾ・ランドルフィ)◎ 数学小説集に入っていたということはさておき、意外とありそうでないアイディアを扱っており、SFファンにオススメかな。

「セクシードール」(リー・アン)◎ 女性の妄想が膨れ上がっていくところが見せ場になるあたりはちょっとシャーリー・ジャクスンを想起したが、よりセクシャルなイメージが強く、全然違うといわれてしまうかもしれない。いずれにしてもイメージが独特である。

「金歯」(ジャン・レイ) 気の弱い墓荒らしのコメディ。気軽に楽しめる。

「誕生祝い」(エリック・マコーマック) 集中一番のインパクトだろう。まあそのまんまといえばそのまんまの話だけど、冷徹というかひんやりとした描写がこの人ならでは。とにかくスゴイ話を書く人であるのは間違いないね。

「エソルド座の怪人」(G・ガブリエラ=インファンテ) これがインファンテですか。どうやら一番凝った作品で奥深そうなことは分かったのだが、いかんせんこちらの素養が乏しく、十分に楽しめなかった気がする。「ファントム・オブ・パラダイス」は観たことあるんだがなあ・・・。また折をみて再挑戦かな。


 意外と元ネタがある作品が多いが、それでも全然テイストの違うものになっているところも見所だろう。