『砂漠の惑星』 スタニスワフ・レム

 6年前に消息をたった宇宙巡洋艦コンドル号捜索のため<砂漠の惑星>に降り立った無敵号が発見したのは、無残に傾きそそりたつ変わり果てた船体だった。(裏表紙の紹介より)

 久々にバリバリのハードSFを読んだという感じ。レムはユーモアものとシリアスものとをはっきり区別していた感あり。これはもうユーモアのかけらもなし。宇宙船のメンバーにより、与えられた情報から科学的にこの惑星の正体が明かされるという話。正攻法謎解きものの展開で、廃墟(のようなもの)、金属粒子の雨、<黒雲>といったしっかりとした科学的アイディアに裏打ちされた様々な現象の描写も凄く(戦闘シーンまである)、王道のハードSFといえる。とはいってもそこはレムで、通常のありふれた展開にはならない。十分に古典なので書いてしまうが、この惑星に存在するのは機械生命体である(雪風のジャムに似ているかもしれない)。異質な生命体であり、結局相互理解の不能性が丹念に描かれることになる。相互理解の不能性、といってもそれがどのように不能なのかなぜ不能なのかが書き込まれているところにレムの真骨頂がある。時に現われる人間集団を客観的に見つめる視点もさすがである。ハードSFといえる作品だが、通常のSFとは大いに異なる。一般的なSFでは、アイディアに基づいたこうした惑星の描写や機械生命体の行動などを、人間というものを物差しにして比較することによって読者に「怖い」とか「面白い」とか何らかの感慨を呼び起こし、そこにSFらしいダイナミズムが生まれる。レムの場合は、想像力によって生み出された事物そのものが、人間という物差し抜きでも、確固たる存在となって迫ってきて、そこに(不思議なことに人間存在を介さないのに)この世界そのものが持つ詩情性が浮かび出してくる。そんな小説を書くことができるレムは唯一無二の作家だと思う。