NHK-BS<ソウル・ディープ>第5回ファンク革命

 さて<ソウル・ディープ>。いよいよファンクの回がやってきた!このために見続けてきたといっても過言ではない。もちろん主役はジェイイイムス・ブラウン!
 1950年代にデビューしたJBだが、そのアイディアが実を結び始めたのは1960年代。彼の発明したファンクはPapa's Got A Brand New Bagで世にはっきりと認知されるようになった。ファンクは、それまでのR&Bとは異なった全ての楽器を打楽器として使うような強烈なビートが特徴だった。そこには例えば一拍目を特に強く打つといった手法があった。またCold Sweatの作曲者ピーウィー・エリスはそのフレーズをマイルス・デイヴィスのSo Whatから借用したという。1960年代後半黒人による反人種差別運動が激しさを増す中(JBがコンサート中に暴れだす観客を説得する映像も出てくる)、JBは当初「経済的自立こそが重要」という持論を展開していたが、やがて世の中の動きに促されるかのようにSay It Loud-I'm Black And I'm Proudをリリース。直截的な内容のためラジオ局には放送を拒否される事態になるが、黒人たちに勇気を与えるフレーズとなった。
 人種融合の理想は、サンフランシスコの男女人種混合のバンド、スライ&ザ・ファミリーストーンが体現していた。またバンドはThank Youのラリー・グラハムのチョッパー・ベースによりファンクを新しい次元に推し進めた。デトロイトモータウンにもファンクの革命は伝搬した。それまでのサウンドが若い層に支持されなくなってきたことを感じ取ったノーマン・ウィットフィールドとテンプテーショーンズはCloud9を、さらにメッセージ性の強いBall Of Confusionを出しファンクへ接近する。また同じくモータウンスティーヴィー・ワンダーはエンジニアのボブ・マーゴレフとマルコム・セシルと組み、ニューヨークでシンセサイザーを大胆に導入した全く新しいファンクを作り出しSuperstitionをヒットさせる(アルバム‘Music Of Mind ’‘Talking Book’‘Innervisions’‘Fulfillingness's First Finale’の四枚ははこのやり方で立て続けに作られた)。
 ファンクの本家JBのバンドには天才少年ベーシストのブーツィー・コリンズが加わっていた。「彼より早くベースを弾けるやつはいなかった」とJBも認める才能でたちまち人気者となり、かのSex Machineも生まれる。しかしその人気を疎ましく思うJBと早くも仲違い、わずか1年で脱退してしまう。そんなブーツィーの居場所を与えたのがクレイジーなファンク集団P-Funkを率いるジョージ・クリントンだった。すぐに馴染んだブーツィーと共に、ジョージはグラムでサイケデリックでSFな独特の世界を作り上げる。その時代、暴動が治まらず先の見えない社会状況が続いていたのだが、へヴィな現実を逃れ物事を笑い飛ばすような手法を取っていた。そして彼らは宇宙船をセットにした大掛かりなショウを行う(P-Funk Earth Tour)。現実離れした内容だったものの、救いを求めて宇宙船(Mothership)に乗ろうというコンセプトは<いつの日か黒人に自由をつかむ日が訪れる>という意味で実はゴスペルの流れをくむものであった。しかしこのツアーは金銭的な負担が大きく長続きすることはなかった。
 その後やや勢いを失ったファンクだったが、ヒップホップの登場とともにJBが再評価される。JBの掛け声を中心としたはっきりとした歌詞の意味を持たないタイプの楽曲がブレイクビーツとしてフィットしたのだ。そしてDJアフリカ・バンバータはJBと組んでUnityを送り出した。
 JBと社会の動きとの距離感が分かったのが大きかったかな。アフリカ・バンバータ(とトム・トム・クラブ)経由でJBを知った人間としては歴史が自分の個人史に地続きになったような内容で感慨深いものがあった。インタビューにはフレッド・ウェイズリーらミュージシャンに混じって、当然ながら名著「Funk」のリッキー・ヴィンセントも出てきてたなあ。それにしても貴重な映像が多い。JBのバックでおそらくステージに出たてで地味な格好をした普通の少年のようなブーツィー。短めだがあまり観たことがないスライやP-Funkのライヴ映像。NYでのスティーヴィーの録音風景。いやー堪能した。
 P-Funkのところで落ち着いたアナウンサーの声で「ブーツィーが共演者として選んだのはこの世のものとも思えない連中でした」「ジョージ・クリントン扮するファンケンシュタイン博士は彼の常識では考えられないファンクのないこの惑星から人々を救いだすのでした」といっているのもやたらとおかしかった。特に後の方のコメントは予備知識のない人は何のことかさっぱり分からないだろう。長年聴いていてもよく分からない世界なんだからw