『英雄たちの朝 ファージング?』 ジョー・ウォルトン

 噂を耳にして購入。現在忙しくてなかなか読書がはかどらずまたちょっとでも長いものはそれだけで苦手なのだが、さすがにこれは面白そうなので読むことにした。1941年ナチスドイツとイギリスが講和条約を結んだ世界を舞台にしたという歴史改変本格ミステリ三部作の一作目。期待通りの出来。

 時は1949年。1941年ナチスの副総統ルドルフ・ヘス突如英国に飛来した事件をきっかけに英国とナチス・ドイツが電撃的に講和条約を締結し、英国には平和な日々が訪れていた。そして和平を取り持った政治集団‘ファージング・セット’のメンバーたちが権力を握っていた。主人公の一人はルーシー・カーン。その‘ファージング・セット’の主要メンバー貴族議員チャールズ・エヴァリーとその妻マーガレットの娘である。民主化が遅れ階級制度が強固に残っている英国の上流階級の出自ながら親の反対を押し切ってユダヤ人と結婚している。気の進まない‘ファージング・セット’の実家でのパーティに参加をしたが、まさにその家で下院議員ジェイムズ・サーキーが殺されてしまう。スコットランドヤードの警部補ピーター・マイケルが捜査に当たるが・・・。

 ルーシーとカーマイケルの語りが交互に話を進めていく、という構成。基本的な筋立ては本格ミステリ。利害関係の絡む一筋縄ではいかない様々な登場人物の誰がいったい犯人なのか?というパターン。しかも国の中枢にある政治家たちが揃っているわけだから犯人探しの中に権謀術数うずまく政治抗争といった要素がからんでくる。しかし、ユダヤ人と結婚しているルーシーが主人公であることによって、民主化が進んでいない英国で迫害を免れるための様々な出自の人々がどう生き抜くのかにより比重が置かれている感じだ。なかでもセクシュアリティについてが多く描かれているところが今日的だと思った。
 作者はウェールズ出身で現在はカナダを拠点としているらしい。これまではファンタジーで知られた作家のようだ(そういえば『ドラゴンがいっぱい』のことはきいたことがある気がする)。1964年生まれ。割と作品少ないなあ。珍しく刊行中の長篇シリーズものに手を出したので、なるべく追いついて読了しようと思う(現在2は購入済み。3も8月中に出るようだ)。