『暗殺のハムレット ファージング?』 ジョー・ウォルトン

 ごぶさたです(笑)。
 忙しくてなかなか更新出来ないのだが、とにかくこのファージングは面白い!そろそろ出る?が楽しみ。長尺ものを刊行のペースに合わせて読むなんて自分じゃ珍しいよ。

 ナチスドイツとの講和を成し遂げた政治集団ファージング・セットに支配されるイギリス。前作『英雄たちの朝』の事件後、マーク・ノーマンビーが首相になりユダヤ人差別は激しくなるばかり。本作の主人公は貴族の娘(六人姉妹の三女)ながら、実家を離れ舞台女優として成功を収めつつあるヴァイオラ・ラーキン。近々ノーマンビー首相とヒトラーが観賞することになる女性版ハムレットの主役に抜擢された。しかしその喜びもつかの間、極力政治的な動きとは距離を置くようにしていた彼女は、国の行く末を憂う親族と妹(四女)の仕掛けるテロ計画に巻き込まれてしまう。事前に失敗に終わった計画の背後にいる見えない彼らの姿を追い続けるのは、前作で捜査にあたったスコットランドヤードのカーマイケル警部補。圧政の中、舞台の裏表で様々な思惑が交錯し緊迫した駆け引きが繰り広げられる。

 クドくて済みませんが、これホント面白い。個人的にも(舞台はほとんど観ていない癖に)演劇の内幕ものが好きなんで(先日NHKでやっていた堂本光一の舞台に関するドキュメントも良かったよ)、輪をかけて楽しめた。テロのことを考えながら演技の稽古をする主人公というかなり大胆な設定なんだけど、その辺も無理なく描かれてるんだよな。登場人物の書きわけも伏線とよくからんでいて、一見多過ぎる様に思える六人姉妹という設定もちゃんと生きてくる。今回も重要な役どころとなっているカーマイケルもゲイとして弾圧を免れるべく体制の中で執務を全うしようとする屈折がよく表現されていて、テロ側警察側どちらにもシンパシーが湧くような配分になっている。実際にこのような世界が訪れても多くの人は確固としたイデオロギーを保てるわけではなくどちらの側に立つかは運命的に選択されてしまうのだろうなあ、と思わされるのだ。巧いねえ。
 ?でのエンディング、期待してしまうよ。