『乱視読者のSF講義』 若島正

 乱視読者のSF講義

 発売日:2011-11-24

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 現在日本で最も優れたSF読みの一人である若島正先生の評論集。もちろん素晴らしい一冊である。
 全体は三つのパートから成り、1.SFマガジンで連載され一回一短篇を扱う「乱視読者のSF短篇講義」 2.様々なエッセイを並べた「乱視読者のSF夜話」 3.どっぷりウルフに取り組む「ジーン・ウルフなんてこわくない」。帯にある「ウェルズからレムまで」とあるように先生ファンにはお馴染みの(いわばスペキュレイティヴ・フィクションとしての)SF史観に貫かれた精緻なそれでいて随所にユーモアのちりばめられたSF論が楽しい。
 名探偵のような理詰めの見事な読み解きに驚嘆するばかりなのだが、その裏に家族が寝静まる中一人読書にふけりベスターに興奮しウルフを読んで不眠となりブラッドベリに意識を失いそうになるというエモーショナルともいえるような面がうかがえることに胸が熱くなる。本書の読後、自分の読んだもの全てに先生の解説が欲しくなってしまうが、読書は個人的な行為だと語っていることを考えるとそんなに甘えすぎてはいけないのだろう(笑)。偶然にも面白いSFと出会い、いつかSF評論集をまとめようと考えていたらしい先生だが、本書が「永遠の淵にたたずむ書物」にならなかったことを読者として幸福に思う。是非日本SF大賞の候補に。