『狼の一族』 アンソロジー/アメリカ篇(異色作家短篇集18)

 異色作家短篇集まだまだ読み残しはあるけれど、若島印ということで、新アンソロジー第一弾に手を伸ばしてしまった。狼男アンソロジーかと一瞬思ったら違った。国別という区切りだった、そういえば。
 元来移り気なので、一人の作家を徹底的に追いかけた記憶があまりない。どちらかといえば色んな作家と出会うほうが好き。それでも読書スピードが遅いので、けっして読んだ作家が多いわけではないが。そんなわけで、このアンソロジーにはおなじみのSF作家に混じって見慣れない名があるのが嬉しい。以下◎がオススメ。

「ジェフを探して」(フリッツ・ライバー) 酒場の何気ない会話からはじまるホラー。巻頭作にぴったり。
「貯金箱の殺人」(ジャック・リッチー)◎ ジャック・リッチーははじめて読む。子供に殺人を頼まれた語り手の大学助教授が何ともとぼけていていい。短編集読もうかなあ。
「鶏占い師」(チャールズ・ウィルフォード) この人もはじめて。鶏占いにはまっていく主人公などという話が読めるのがこのシリーズ読む愉しみだと思う。
「どんぞこ列車」(ハーラン・エリスン) エリスン独特のやけくそリリシズム(何じゃそりゃ)が炸裂。もう骨までエリスン
「ベビー・シッター」(ロバート・クーヴァー)◎ 子供をベビー・シッターに預けてパーティーに出かける夫婦ってな話なのだが、多視点で描かれる物語は加速して想像を絶する地点へ。いやあスゴイわコレ。
「象が列車に体当たり」(ウィリアム・コツウィンクル) この人も恥ずかしながらはじめて。確かに変である。
「スカット・ファーカスと魔性のマライア」(ジーン・シェパード)◎ 初紹介らしい(おお!)。コマまわしの勝負をする少年達の物語。勝負のシーンが白熱していて素晴らしい。スパイクシーってどんなコマなのかな。
「浜辺にて」(R・A・ラファティ)◎ 奇っ怪な貝を媒介世界を理解、爽快に問題解決、ホントかい?(うまくいかんな)。
「他の惑星にも死は存在するのか」(ジョン・スラデック)◎ なんとこれはスラデックらしからぬテンポの良い宇宙アクション。いや、むしろらしいといえるのか?ロボット出てるし。見ようによってはディック風?いやなにかが違うんだ。なにかが・・・。
「狼の一族」(トーマス・M・ディッシュ) ストレートな狼人間もの。大人向けだが、実験サイドではない物語りサイドのディッシュ。 
眠れる美女ポリー・チャームズ」(アヴラム・デイヴィドスン) エステルハージ博士を主人公としたオカルト探偵ものだろうか。ヨーロッパの架空の国の描写と衛兵を雇っている天才博士のキャラクターが印象的。当サイトが敬愛してやまない殊能将之様の本作へのコメントによるとアナクロニズムがこの人の強み(=逆に古びない)であると。なるほど。それにしてもアヴラム・デヴィッドスン・ファンサイトSPAAD60の情報量はやはり凄い。スキュティア(スキタイ)ーパンノニアートランスバルカニアって意外とデカい国なんですね。

 テーマアンソロジーではないだけにバラエティ豊かな一方、統一感はあまりない。かなりアクの強い作家が多い気もするが、個々の作品としては比較的とっつきやすいものが多く、こうしたアンソロジーの入門編ともなり得るのでは。

森下一仁先生の2/14惑星ダルの日常にも評が。うんうん「スカット・ファーカス・・・」は傑作ですよねえ。