NHK-BS 贋作の迷宮

 NHK-BSの贋作に関するドキュメント。面白かったー。
 膨大な量を誇る贋作市場と警察の争い。泣き寝入りをする買取人。まさにリアル‘ギャラリー・フェイク’。最近はネットオークションを舞台に数分に一度といった頻度で偽物が登場するらしい。また、陶器などだと遺跡の陶器のかけらから偽物を作り、鑑定結果を幻惑するとか、出来た偽物を掘り起こし観光客に売るとか手が込んでいる。もちろんコンピュータや化学分析を駆使した鑑定法も発達、その激しい争いが興味をそそる。一方で逆に放置されていた絵がルーベンスのものと判明したりすることもあるとか(ルーベンスの作だと分かった、とある村で放置されていた絵は90億円)。
 でもドキュメントの主役は200以上の贋作を描いて美術業界を恐慌に陥れたイギリスの贋作画家ジョン・マイヤットの話がメインだろう。元々絵を教え細々と暮らしていたジョン・マイヤットだったが、子ども二人を残し妻が失踪し生活が苦しくなる。やむなく自らの署名入りの<正直な贋作>を売ることにしたが、その作品を本物として売る人物があらわれてしまう。そして鑑定をすり抜け高額で取引される。それを知った人物(John Drewe)にそそのかされて贋作で巨額な売り上げ(3億円だとか)をあげる。いつかは捕まると覚悟していた彼は1995年に逮捕、1年間服役する。
 もう二度と絵筆をとらない、と決意し希望を失った彼にもう一度絵を描くことをすすめたのは捜査官だった。家族を自分のジョン・マイヤット自身のスタイルで描いてほしいと頼んだのだ。その絵は今もその家に飾られている。
 と、話がここで終わればいい話になるのだが、実際は少し違っていた。ジョンに目をつけたマスコミにより、番組まで持つ人気者にのし上がってしまったのだ。いろんな画家のスタイルを模した<正直な贋作>は大人気、彼の絵が高値で売られるようになった。さらには彼の贋作まで登場してしまったのだ!
 このジョン・マイヤットの絵が本当に巧くて、しかも仕事が早い。納得のいかない絵はすぐに破り捨て、元の画家の精神にまで入りこんで仕上げようとする妙な実直ぶりがすごい。絵を古く見せるために、釘をさびやすく塩水につけたり、完成した絵にインスタント・コーヒーをかけたりしているところもおかしかったなあ。