「地球に落ちてきた男」DVD視聴

 名高い作品を初見。心に沈みこむような切ない映画だ。
 
 水を求め宇宙からやってきた男は最新技術により大金を得る。地球に恋人も出来た彼だが、故郷の星に残した妻子を思い宇宙船の建造に乗り出すが・・。
  
 この世の人間とも思えないほど美しい若き日のボウイは同時に深い孤独とどこか超然とした空気を漂わせ、これ以上ないほど宇宙人役がはまっている。アメリカの地方ロケーションの映像も素晴らしく、特殊効果はやや古めかしいものの、説明的ではない幻想的な演出で、全く古く感じられない。それにしてもあくまでも受け身で周囲を傷つけることなく、自らばかりが苦しめられ、地球から逃れられなくなる主人公があまりに辛い胸を締め付けられるような作品だ。辛い名品である。
 
 特典映像も興味深く、相手役の女優キャンディ・クラークがキャスティングなどで重要な役割を果たしていたことなど興味深かった。監督のニコラス・ローグは他の作品も観てみたいな。SF映画の監督であるボウイの息子ダンカン・ジョーンズはこのロケに同行していたらしく、生粋のSF人生だなあ。

※追記 結構ヌードが出てくる映画だった(笑)。あと中盤の謎の日本趣味とか、そこに顕微鏡を持ってくる異質なものを組み合わせるというシュールレアリスムの典型のようなパターンもなかなか興味深い。70年代テイストともいえるのかな。
 

映画‘ニードフル・シングス’TV視聴

 AXNミステリーのスティーヴン・キング映画特集の続き。
 アメリカの田舎町に骨董品屋が開店する。店主は親切そうな初老の紳士。お客が一番欲しいものを気前のいい値段で売るのだが・・・。
 原作は未読の上予備知識も無かったが、早々にこの店主が町の住人たちに潜む敵対感情を煽り破滅に導く人物だと分かり予想通り話が進行する。その分前半は多少退屈なのだが、後半は勢いを増し町全体を舞台にした派手な展開となるので盛り上がる。
 キングが影響を受けたマシスンの「種子まく男」を連想した。キングはこういう共同体の危機をという話が多い印象がある。

映画‘ブロークバック・マウンテン’TV視聴

 随分前に録画したものをようやく視聴。いや公開した時から観ようと思ってたんだが、既に8年も前の映画なのか・・・。
 羊の放牧の仕事で出会ったカウボーイが恋人になってしまう。仕事が終わり離れ離れになり結婚し子どもを持つなどしたが、やはりお互いを忘れることは出来なかった。
 一目ぼれで運命的に出会った二人が世間に引き裂かれ、という王道の恋愛映画で切ない話であるが、一方で大自然映画であり、カナダのロッキー山脈などで撮影されたという山・大空・羊の群れなどなど壮大な光景をたっぷり目の前に広げてくれる作品。劇場で観たかったなー。

 

『第四次元の小説ー幻想数学短編集』三浦朱門訳

 ユニークな数学SF集。作品の内容についてイラストやテーマについてのエッセイがついているなど、数学解説の要素が多く含まれている。
「タキポンプ」エドワード・ペイジ・ミッチェル 数学教授の娘に恋した劣等生。結婚のため数学の難問を与えられたが。古典的パターンの小説(実際1873年のものらしい)だが、主人公が相談する学者がいい味を出している。
「歪んだ家」ロバート・A・ハインライン 友人の建築家の設計で出来た奇妙な家。ハインラインタイムパラドックスとか論理遊びが好きなんだなあ。ウルトラマンブルトンを思い出した。
メビウスという名の地下鉄」A・J・ドイッチェ 幽霊電車!X電車で行こう、ではないか!舞台はボストン。
「数学のまじない」H・ニヤリング・Jr 数学の出来ない生徒に手を焼いた教授が苦肉の策。数学とヴ―ドゥーできたか。これ好きだな〜。
「最後の魔術師」ブルース・エリオット 火星で脱出ショーを演じる魔術師。新ネタとして<クラインの壺>からの脱出ショーを行うことになったが。ちょっとミステリ仕立てになってる。
「頑固な論理」ラッセル・マロニー 6頭のチンパンジーが100万年の間タイプライターを打ち続けるといくらでも本が出来るよ!ってラファティの「寿限無寿限無」もあったな。いつからあるネタなんだろうなあ。
「悪魔とサイモン・フラッグ」アーサー・ポージス 悪魔の召喚に成功した主人公は、ある数学の問題を悪魔に出した。軽妙で楽しい。自分ではこれが集中ベスト。
 
 数学ネタなので図解が丁寧なのは嬉しい。各種読書ガイドもついていて参考になる。ただ出てくる小説や作家の方の情報は不十分なのでそこは残念。数学テーマだけでなく話としても親しみやすくバラエティに富んだチョイスになっているのに惜しいなあ。

映画‘シークレット・ウィンドウ’TV視聴

 先月AXNミステリーでやっていたスティーヴン・キング映画の特集を録画して少しずつ観るのコーナー。
 離婚協議中の作家が過去の盗作疑惑についてストーカーにつきまとわれるサスペンス。
悩める作家にストーカーと他作品とも共通するテーマは興味深いものの短めで予想通りに展開されあんまり驚きのない地味な作品。途中Talking HeadsのOnce In A LifetimeのThis not my beautiful house! This is not my beautiful wife!のフレーズが独白として使われているのがちょっと面白かったが、曲の方ではシュールなギャグだったのがジョニー・デップ様が言うとやるせないけどカッコよくなっちゃうところがフィットしていなかったような。

‘ドラキュラ’(1992年)録画視聴

 コッポラのドラキュラ。こんなのあったのかと思ったほどで、全く存在を知らなかった。
 イスラム勢力との戦いの最中、トランシルバニア城主のドラキュラ伯爵は自らの戦死という誤報のために最愛の妻の自殺という憂き目にあってしまう。絶望した伯爵は神を呪い、吸血鬼と化す。400年後、ロンドンで亡き妻に瓜二つの女性と出会う。
 というラブロマンス。そういったわけで予備知識が無かったがゲイリー・オールドマンウィノナ・ライダーキアヌ・リーブスアンソニー・ホプキンスと豪華な顔ぶれ。それよりむしろ衣装と美術が素晴らしく、やや冗長ながら全体にゴシックな雰囲気は保たれていて結構楽しめた。
 ネット評をみると反応は様々なのが面白い。ホラーらしくないとかストーリーに説得力が無いとか気持ち悪いとか・・・。原作は未読でどれくらい変えているのかよく分からない(原作いつか読まないとなあ)。基本的には映像を味わうタイプの映画でこれはこれでいいのではないかなあと思う。石岡瑛子がアカデミーの衣装デザイン賞を受賞しているが、それは納得。

『第九の日』 瀬名英明

 ケンイチくんというロボットを主人公にしたシリーズ。中心となる『デカルトの密室』がまだ未読なので多少作者の問題意識を把握し切れていない気もするが、連作短篇集なのでとっつき易いSFミステリ集。どれも先行作品のあるパスティーシュもの。
「メンツェルのチェスプレイヤー」 ポオの作品などが元。「ロボットに殺人が可能か」というテーマとチェスの勝負が鮮やかに融合。
「モノー博士の島」 もちろんウェルズが元。身体障害者のオリンピック出場という話はオスカー・ピストリウスを予見したかのようだ。
「第九の日」 クイーンやC・S・ルイスが元。タイトル作で最も長く、科学と宗教を対立軸に人間とは何かというテーマに加え、(前の2作にも見られるが)フィクションにおける記述の問題も追及されている傑作。(『第八の日』の内容があまり思い出せない・・・)
「決闘」 チェーホフが元。同時多発テロのイメージがコアにあるが、国際緊張の高まる作品背景は現在こそ重く感じられる。