映画‘チャップリンの黄金狂時代’‘間諜X27’
新橋文化で2本立て。以下雑感(内容に触れてます)。
‘チャップリンの黄金狂時代’
ゴールドラッシュの時代に一攫千金を狙い雪山に例のいで立ちで乗り込むチャップリン。猛吹雪の中飛びこんだ山小屋に指名手配の凶悪犯。そこですったもんだするうちに金鉱を発見した男も避難してさらにひと騒動。何とか町に辿り着いて酒場の娘に一目ぼれして・・・。といった感じの話。
革靴を食べるシーン、フォークとパンによる食卓での見事なダンスのシーン、崖ぎりぎりに置かれてしまった小屋でのギャグなどなど観たことのある有名なシーンがテンコ盛りだった。代表作なんですな。後のコメディ映画への影響力は当然ながら、体を張ったアクションにも特筆すべきものがあり、現代の映画でみられるユーモア風味のアクションシーンにも影響を及ぼしているのではないかと思った。ただ全体はコメディながら、凶悪犯による殺人もある一方で片思いの切ないシーンもあるという多面性がいちおう納得のいくプロットに収められているものの、それぞれの要素は分離してブツ切れのようにも感じられた。何はともあれ、名シーンの数々は大変素晴らしく歴史に残る作品であるのは間違いない。
‘間諜X27’
第一次大戦中のウィーン。政府の諜報機関にスパイとして働くよう打診された娼婦。スパイ活動をしているロシア大佐と運命的な邂逅をする。
伝説の女スパイ<マタ・ハリ>がモデルになっているらしい。いやーこの映画は何といってもマレーネ・ディートリッヒ!不勉強ながら初めて出演作を観たんだけれども、いるだけで妖艶でどことなく頽廃的な空気を身にまといちょっと他にいないようなタイプの女優である。一つ一つの動きが独特で、一挙手一投足に魅入られてしまう。例えば椅子があって座る場合でもほとんど普通には座らず、横に腰かけたり斜めに座ったりゆっくり足を組んだりする。そういう意味ではわざとらしく感じられてもおかしくないのだが不自然じゃないんだよなあ、不思議と。これ他の人が形だけ真似するとコントにしかならない気がするよ(笑)。また垢ぬけない娘のコスプレもしていて、ある意味そういうアイドル映画ともとらえられるかもしれない。筋立てはシンプルでこれというほどのこともないのだが、冒頭からラストまで画面を支えるスターの存在があれば傑作になるということか。
"Random Access Memories" Daft Punk
アルバムの方もゲストにジョルジオ・モロダーにポール・ウィリアムズ(ああファントム・オブ・パラダイス!)と実に70年代な顔ぶれが並び実にオサーンの自分のツボをついてくる。本人達が生まれた頃の音楽なのにねえ。
ちょっと他のアルバムも聴いてみようかなあ。
『闇の宴 酒天童子異聞』 永井豪
永井豪によりラストに明かされる正体については、解説で学者により反論が示されていることから、学術的な内容とは言えないところが多々あるのだろう。しかしさすがに長年魅せられてきたモチーフらしく多くの資料に当たり各所に赴いた実体験が、自らの漫画というフィールドでフィクションパート多めでサービス精神たっぷりに表現され、なかなか魅力的な読み物になっている。研究というより、著者の発想のプロセスが読みどころのエッセイ漫画といったところだろう。ファンの方にはオススメ。「手天童子」が楽しみになるね<まだ読んでないのかよ
『赤い惑星への航海』 テリー・ビッスン
ユーモア短篇の名手ビッスンの本格SF。ハリウッドや火星飛行といった道具立てはいかにも王道路線だが、そこにアフロフューチャリズムの要素やラスタファリアニズムもあるかな、そんなところがユニーク。ビッスンをそういった作家と思っていなかったことでの発見もあるし、アフロフューチャリズムとラスタファリアニズムはよく考えればアフリカ回帰主義的につながりがあるもののFunkとReggaeとして分けて一緒に考えていなかった自らの迂闊さを気づかせられたし、非常に興味深い一冊だ。
※twitterでこの本を紹介して下さったすけるさんによる読み応えのあるSF書評ブログ「わたしがSF休みにしたこと」での本書のレビュー。Jefferson Starship も含んでアメリカのポップミュージックの歴史への広がりを感じさせてくれる素晴らしい内容でその辺りにご興味の方は是非ご一読を。
『元素図鑑』 中井泉
NHK連続テレビ小説「あまちゃん」終了
なんかすごい盛り上がってる。
まあそれもそのはずで、後半しか見ていない自分が言うのもなんだが非常に考えられたコメディで、例えばこのまとめのように精緻に構築された作品世界はどうやら一度見たぐらいでは把握できないほど奥深いようだ。
それはよりドラマや映画に詳しいお任せして、個人的な雑感を。
このドラマはアイドルに憧れたが挫折した母親とその娘がまたアイドルを目指す、というアイドルというものが大きな柱となっている話。ブログ主は80年代文化育ちの世代なので、実は当時のアイドル文化にハマった経験は無いものの、さすがに懐かくそれだけではなく随所に優れた批評眼といったものが感じられるのが良かった。例えば薬師丸ひろ子演じる鈴鹿ひろ美と小泉今日子演じる天野春子は、地としてアイドルにおいてのいわゆる天然系と迫力ある番張ってる系(要はスケバン系)の対比みたいなところがあって、そういえばそういう風にも分けることも出来たのかなどと感心させられる(まあ結局どちらも我の強さは変わらないだろうが)。そして演じる二人は角川映画系アイドルとベストテン系歌謡系アイドルの対比とも取れるような虚々実々ぶりが楽しい。虚々実々といえばさかなクンの自前のコレクションを水族館へ寄附するところとか恐竜の骨のくだりとか、現実のエピソードがところどころに含まれているのも全体にいい重しを加えていると思う。
SFマガジン2013年11月号特集 海外SF短篇セレクション
特集は海外SF短篇コレクション。分載のストロス以外の特集短篇を読んでみた。
「ホワイトフェード」キャサリン・M・ヴァレンテ 閉塞した保守的な世界に暮らす少年少女が適齢期になり通過儀礼としての「お披露目」に臨む。複雑な作品背景を十分に読み解けた感触は無いが、思春期の心の揺れと共に次第に深刻な社会状況が明らかになる手腕は巧み。読んだのはこれで短篇2作だけだがユニークな日本趣味もあって興味がそそられる。「孤児の物語」長いけど読もうかなあ。
「ジャガンナートー世界の主」カリン・ティドベック 偉大なるマザーの中で生まれた少女の成長が描かれる。ぐちょぐちょぬとぬとの不気味な異世界生物なんだけどさわやかな話でこれも面白かった。
「最終試験」メガン・アーケンバーグ 結婚生活に訪れた悲劇の原因はなんだったのか?選択問題形式で話が進むところがユニークで、非日常的な要素が皮肉なタッチで混入するところも上手い。これも良かった。
「真空キッド」スティーヴン・バクスター 事故から偶然に宇宙での特異体質を持つことを知った主人公。ヒーローものの導入部みたいなところでとどまるのが惜しい。続きは書かないの?