海外文学

『マラマッド短編集』

年刊SF傑作選4の変な傑作「ユダヤ鳥」に不思議な面白さがあったので、新刊では手に入らない本書を探していたが、たまたま立ち寄った大型古書店で発見。ユダヤ系らしい独特のカラーがあるなかなかにユニークな作家だ。アマゾン評で柴田元幸が『アメリカ文学…

『あなたまかせのお話』 レーモン・クノー

元々この人のことは知らなかったし、もちろん実験文学グループ<ウリポ>の名も耳にしたことはなかった。何はともあれ『異色作家短篇集 エソルド座の怪人』収録の「トロイの木馬」のシュールなような放り投げられた冗談のようなすっとぼけた雰囲気があまりに…

『寄宿生テルレスの混乱』 ムージル

全寮制の男子校で学校生活を送る主人公テルレス。知性的なテルレスは、不良グループに気に入られ仲間になる。彼らは気の弱い美少年バジーニに目をつけ、いじめの対象にする。ティーンエージャー特有の不安定な性衝動をかかえ、彼らと行動を共にするテルレス…

『存在の耐えられない軽さ』 ミラン・クンデラ

主人公の一人トマーシュは女たらしの外科医。肉体関係だけを求め、ことが終わるとさっさと自宅へ帰ってしまうような彼だが、とある町で知り合った純朴な娘テレザと一緒に暮らすようになる。トマーシュには永年気心の知れた別の愛人、画家で自由闊達なサビナ…

『八月の光』 フォークナー

今年の夏に読もうと決めていたのがこれ。貧困と差別の蔓延する昔のアメリカ南部(南北戦争のしばらく後くらい?)の濃密な空気の中、過去の因果が報い情念がどろどろ流れ出すような世界を描くこの小説はちょうどこの時期に合っている感じだ。 ふらりとアラバマ…

『夏期限定トロピカルパフェ事件』 米澤穂信

ブックオフにあったのでシリーズ2作目からになってしまったが初めてこの人気作家の作品を読んだ。なるほど面白いですね。青春小説とミステリーのフォーマットを生かしながら、なかなか読後に余韻が残るものだ。 小市民として日々を送ろうと決意した変な同志…

『楽園への道』 バルガス・リョサ

フローラ・トリスタンと、その孫ポール・ゴーギャン。片や十九世紀半ばに女性や労働者の人権向上に奔走した「スカートをはいた煽動者」、片や文明社会を捨て自らの世界に没入した芸術家。一見対照的とも思える祖母と孫、血縁なのに会ったことすらない二人だ…

『残酷な童話』 チャールズ・ボウモント

Charles Beaumontの第一短編集(ボウモントかボーモントかよく分からないので英語表記)。『夜の旅その他の旅』は第三短編集にあたるらしい。作風にはそれほど違いは感じられず。初期から完成された作家であったことがよく分かる。やっぱりBeaumontはいいな…

『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』 トーマス・マン

若いころにほとんど古典を読んでいなかったので、この年になって少しずつ読むことになってしまった。トーマス・マンなんて初読だ。デュ・モーリアの「美少年」の元といえる「ヴェニスに死す」に興味をもったということで。題名の通り2作入っている。 むしろ…

『透明な対象』 ウラジミール・ナボコフ

T T!!T T!!T T!!(G.T.じゃないよ、ってまたもやしょうもないダジャレで失礼・・・) 主人公は冴えない編集者ヒュー・パーソン。大作家の原稿の催促にスイスに向かうが、そこで美しい風変りな女性と出会う。 ・・・なんていうのはこの小説のごく一…

『オコナー短編集』

「頭をぶんなぐられたようなショックを味わう」、と若島正はいう。 フラナリー・オコナーは、紅斑性狼瘡(膠原病の一種)という難病に侵され、1964年に39歳の苦痛に満ちた生涯を終えたというアメリカ南部のカトリックの作家である。その作品は、当然キリスト…

『変身/掟の前で他2編』 カフカ

薄いのでちょっと読んでみた。タイトル通り4編入っている。 カフカは短編しか読んでいないので(『審判』を途中で挫折したのを思い出した)、特に何かをいえるような立場にはないが(こんな言い訳ばっかりで失礼)、生前に「自分の作品を全部捨てて欲しい」と…

氷!

殊能さまページ経由で、こんなニュースが。 以前凄い!と感じたが、 『海を失った男』の学生の感想と正直同じだったので、今度はじっくり読もうと思う。

『まっぷたつの子爵』 イタロ・カルヴィーノ

有名な作品だが初読。 牧歌的な作品を勝手にイメージしていたが、解説にもふれられているように影のある小説である。時代背景もあり、ふたつに分かれた世界(1951年に書かれたというから冷戦がモチーフのひとつに違いない)、善と悪についての重い考察がメイ…

イエス!イエス!イエス!

殊能さまも反応されているように、本の雑誌9月号の青山南氏のコラムには驚愕。いやへーそうだったのか。新訳読まなきゃ、っていうか何の予備知識もなく読んで驚きたかった気持ちも少し。旧訳を読んでいたので、そっちの方は読む予定なかったんだけどね。

『英国短篇小説の愉しみ』1

3から読み始めたが1もいいね。3の副題は<不思議の薫りを楽しんでください>で、1の副題は<文学の薫りを楽しんでください>。でも中身に大きな違いはなく、幻想的でほの昏い濃ゆい味のおいしい短編が揃っている。(○がおすすめ)「豚の島の女王」○ジェラル…

『英国短篇小説の愉しみ』3

1,2はまだ読んでいない。アンナ・カヴァンが読みたくなったので3を。○が面白かったもの。「輝く草地」○ アンナ・カヴァン 雑草も葉っぱもほっとくとどんどん出てくるよね!今の季節はとくにね!ってそれはともかく。草地を描いても独特の荒涼感が漂うと…

『黒い時計の旅』 スティーヴ・エリクソン

Takemanさんのところで言及されていたので読んでみた。 ご指摘の通り、情念に満ちた物語である。何人かの主人公の視点で語られるが、メインは出生の秘密を知り、家族を惨殺して逃亡し、果てはナチ高官(誰なのかは明らかだが、最後まではっきりとは書かれてい…

『伝奇集』 J.L.ボルヘス

「いつもいつも、本、本って、あんたは本の話ばっかり。そんなに本が好きなら図書館の子供にになっちゃいなさい!!」というような、幼少時代からの本の虫だったらしいホルヘさんの「バベルの図書館」はやっぱり強烈。その一辺に本棚が並んでいる六角形の回…

局所的偶然(些細)

以前から、とある作家の評論集を読んでいるがなかなか読み終わらない。数日前から再びとりかかり、昨日は「ロリータ」についての項を読んでいた。一方、また別の作家の短編集をこれまたダラダラと読んでいる。今日、その一編にハンバート・ハンバートの名が…

『サンクチュアリ』 フォークナー

1920年代アメリカ南部。自動車事故を起こして帰れなくなった女子大生とその彼氏が、助けを求めた廃屋には無法者がたむろしていてエライ事に・・・。 まあ著者が“想像しうる最も恐ろしい物語”というのも伊達ではないぐらい陰惨な話。いやあ不注意なんでちょっ…

『紙葉の家』 マーク・Z・ダニエレブスキー

写真家ウィル・ネイヴィッドソン一家が奇妙な家で体験した恐ろしい出来事。→残ったヴィデオなどからザンパノが『ネイヴィッドスン記録』を残す。→それを発見したジョン・トルーアントが注釈・編集。というような複雑な構成をベースに、沢山の注釈が暴走した…

『ディケンズ短篇集』

普通に現代的な短編が多い。訳者の解説通り、ホラー風味、ミステリー的仕掛け、異常心理などが特徴となった作品集。「奇妙な依頼人の話」「狂人の手記」「ある自虐者の物語」、「ジョージ・シルヴァーマンの釈明」にみられる異常心理や鬱屈した人間心理の告白は時代…

『ロリータ』 ウラジミール・ナボコフ

あらすじを追う程度の初読だけど、やっぱり凄いわ。まずネタ自体が50年たった今でも(ある意味現代ではさらに)衝撃的だし、ハンバートのナルシスティックでグロテスクな自己弁護もまた十二分に恐ろしい。さらに若島先生自身の解説によると、背景となるテーマ…

『トルーマン・カポーティ』『叶えられた祈り』

トルーマン・カポーティ〈上〉 〈下〉 おびただしい証言によりカポーティの人物像に迫る本。無邪気すぎる上昇志向とその挫折といったまさにフィクションのような人生がかいま見られる。派手好きで自己顕示欲が強い一方で南部出身のコンプレックスの強い小男…

『冷血』 トルーマン・カポーティ

映画を観る前の予備知識アップのため、カポーティ強化中。 で、この<ノンフィクション・ノヴェル>は現代ジャーナリズムに相当な影響を与えたらしい。実際、例えば同テーマの犯罪実録本は山ほど出ていて、本書の後半での犯罪心理の分析などはありふれている…

『元気なぼくらの元気なおもちゃ』 ウィル・セルフ

「ごっつい野郎のごっつい玩具」ではなかったのですか? ドラッグ作家による悪夢的世界、みたいな帯の文章は半分あたりで半分はずれ。クールな世界観というよりはやるせない、割と人間くさいトホホな世界がイギリスを舞台に繰り広げられている。そのドラッグ+…

『隠し部屋を査察して』 エリック・マコーマック

まさに奇想の展覧会といった感じの、ある意味呆れ返るぐらいの独創的なアイディアと時に残虐ともいえるようなエピソードが印象に残る様々な物語。管理国家で風変わりな‘隠し部屋’に収容された人々をめぐるタイトル作、やたらとスケールの大きい観光列車(?)…