海外SF

『限りなき夏』 クリストファー・プリースト

さて遅ればせながら読了。収録中8編中、4編が単発もので4編が<夢幻群島(ドリーム・アーキペラゴ)>シリーズということでやや変則的な短編集といった面はあるが、全体としては様々なジャンルの要素を内包しプリーストらしさがよく出た傑作が並んでいるので、…

<新しい太陽の書>?調停者の鉤爪 ジーン・ウルフ

いやー1巻目でオレなにを読んでたんだろう?早くも迷路に入り込んでしまったかのようでますます再読感がないや。謎だらけでなかなか難しいわコレ。仕方がないので断片的にいえば、冒頭の裁判(?)の話、ジョナスの章、水の精などが印象深いかな。きっと小説内…

『月は無慈悲な夜の女王』 R・A・ハインライン

昨年夏祭りで収穫した大量のSF古本。ほとんど積読状態になっているが、なんとか少しずつ消化を。というわけでいまさら(SFのちょう有名な作品を読む)シリーズとして本作を読んだ。 2075年の地球の植民地として富を吸い上げられている月世界。圧政の中、自…

新装版<新しい太陽の書> ジーン・ウルフ

さて新装版の<新しい太陽の書>1巻『拷問者の影』。 今回の新装版は装丁もさることながら5巻目の『新しい太陽のウールス』も出るのがポイント(ご存じの方も多いと思うが、編集者の要望で書かれたこの5巻目はシリーズの様々な謎を分かりやすく説明する役割…

『ノーストリリア』 コードウェイナー・スミス

先日久しぶりに読んだコードウェイナー・スミスが素晴らしかったので永らく積読していた『ノーストリリア』をようやく読んだ。さすがはSFのオールタイムベスト上位に常に選ばれる作品で、名作らしいまた実にSFらしい名作だ。 ひとりの少年が地球を買い取…

『夏の涯ての島』 イアン・R・マクラウド

ようやく読了。読了までに時間がかかったものの全体としてはけっして読みにくいと言うわけではないいい短編集だ(時間がかかった理由は下記)。出版社や装丁や表題作の内容などからともするとクリストファー・プリーストとイメージがかぶりそうだが、資質とし…

『筋肉男のハロウィーン〜13の恐怖とエロスの物語〜』 ミシェル・スラング編

さあのうずの実家も神奈川県なのだが、その近所には元々本屋が多くなかった。その昔中学から高校時代帰り道によく寄ったのは古くからある商店街にある(新刊の)本屋と古本屋だった。いずれも小さかった。古本屋の方はたぶん30年近く前からあった。品揃えは…

『スターシップ』 宇宙SFコレクション? 伊藤典夫・浅倉久志編

日本編集の海外SFアンソロジーを出そう、ということで1985年に新潮文庫から出された宇宙SFコレクションの2冊目。好評だったらしく、続いて1987年に時間SFコレクションが出ている。それら三冊のうち、唯一持っていなかった本書を偶然通りかかった古本市で目に…

『終りなき戦い』 ジョー・ホールドマン

いまさらシリーズ。有名な戦争テーマの名作ということで、もっとドロドロしたものを想像していたが、戦争を中心に据えてそこからどういう風に社会が変化するか次々にアイディアを展開させていく実にSFらしい作品だった(ちなみに『虐殺器官』の方が内省的か…

『蒸気駆動の少年』読了

これは翻訳SF史に残る一冊。質、量(!)、作品のヴァラエティ、充実した解説いずれも特筆すべきでSFファン、ミステリファン、ホラーファン、そして何より一般読者に手にして欲しい本だ。これまで熱心なスラデック読者ではなかったため、本書でようやくその…

『ハイぺリオンの没落』 ダン・シモンズ

『没落』も読んでみた。 すごいねえシモンズ。 こちらではノンストップアクションの趣きで壮大な宇宙戦争による人類の危機と全体の謎解きをからめて怒涛の勢いで突き進む。ベタを恐れない大胆な筆さばきが見事で、文学趣味と王道娯楽SF成分が高度に融合して…

『ハイぺリオン』 ダン・シモンズ

そうなのだ読んでいなかったのであるわははははは。いやどうせ面白いだろうと思って。 まあ言い訳はさておき。 やっぱり凄いのねこれ。なんというかSFの歴史総ざらいみたいな。文化人類学SF、ミリタリーSF、時間遡行、サイバーパンクなどなど・・・。リーダ…

『超人類カウル』 ニール・アッシャー

ボタンの掛け違いというべきだろう。 Takemanさんご指摘の通り、この<カウル>主人公ではないのだ。 てっきりヒーローにしろ悪役にしろ超人類が大暴れする話だと思ったのである。 本作はタイムトラベルもので、遠未来の二つの勢力の争いに巻き込まれた(200…

‘Empire Star’ Samuel R. Delany

10年前にたしかトロントで買った原書を読んでみた。この世にはBabel-17とEmpire Starが背中合わせになったカッコいいダブルブックというやつがあるらしいと以前聞いていて、手に入ればなあと思っていて、その時は仕事で出かけたのだが、偶然見つけた古書店で…

『悪夢機械』 フィリップ・K・ディック

やっぱりディックは面白いなあ。(以下○が特によかったもの)「訪問者」 放射能で汚染された地球で突然変異した生き物ばかりがはびこっているという話。普通かな。「調整班」 時空を調整する機関の不手際で、現実から遊離してしまった男の話。日常がつくりも…

『千の脚を持つ男』 中村融編

The Monster Bookという英題もついている、中村融編の怪物アンソロジー。当然楽しくならないわけがない。あとがきも心なしかお気に入りの作品を並べて遊んでいる視点がいつもより強いように感じられる。解説でウェルズ「海からの襲撃者」やバーカー「父たち…

古典新訳文庫に

クラークの『幼年期の終わり』が登場するって!例によって、悪漢と密偵さんのところから。 いやあなんか感慨深いものが。どうみてもラインナップの中では若い作品。ちょっとした光文社の冒険心が嬉しい。どうゆう流れで出ることが決まったのかな。 村田は35…

『輝くもの天より墜ち』 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

昆虫から進化したという羽根を持つ美しい種族の住む、惑星ダミエム。彼らが苦痛を受けた時に分泌される体液は人類にとって美味で、たくさんの生命が犠牲にされてきた。住民を保護するために派遣されている連邦行政官らは、ダミエムでしか見られない天体ショ…

『超生命ヴァイトン』 エリック・フランク・ラッセル

ガーンズバックに続き、積読していたハヤカワ・SF・シリーズもの。 2015年の未来社会。高名な科学者が5週間で19人も急死、その背景には正体不明の光球生物が!!筋は面白そうでしょ。でもね・・・。 「人類は実は家畜だったのだ」といった話がまえがきに熱っ…

『ラルフ124C41+』 ヒューゴー・ガーンズバック

ワールドコンの‘テスラ―ガーンズバック連続体’の流れで、積読だった『ラルフ124C41+』を読んでみた。ごく単純なストーリーにおびただしい数のSFアイディアをこれでもかというほど盛り込むパターンは意外に今のSFにもありそう。エーテルとか時代を感じさ…

『夜の翼』 ロバート・シルヴァーバーグ

割合渋い話である。すっかり変貌してしまった遠未来の地球(その経緯は徐々に明らかにされる)。人々は<監視人><記憶者><検索者><筆記者><巡礼者>など様々なギルドに分かれ役割を分担している(<検索者>が愚か者扱いなのがちょっとおかしい。先生!…

『ゴーレム100』 アルフレッド・ベスター

これは恐るべき作品だ。 二十二世紀の超格差社会<ガフ>。スラム化している一方で、富裕マダムがお遊び降霊術をやっている滅茶苦茶な社会。なぜそんなことになっているかというと、 豪勢な<オアシス>のなかで守られた生活を送ることができ、(中略)ガフ…

『コンピュータ・コネクション』

他の長編より軽いとの漠然とした印象を事前に持っていたが、意外とアイディアの密度が濃い。実は一読で十分に消化しきれていないが、コンピュータの反乱に立ち向かうヒーローとそのラブロマンスといった図式がふまえられていてらしい仕上がり。一般的に言わ…

『擬態ーカムフラージュ』 ジョー・ホールドマン

2019年、ラッセル・サットンらのグループは海底に沈んだ謎の人工物の探査に極秘に乗り出す。 一方1931年、永らくひとりで海中にひそんでいた変幻自在の地球外生命体<変わり子>は陸にあがり人間社会に入っていくようになった。 さらに地球上には紀元前より…

『時の声』 J・G・バラード

バラードの初期短編集。例えばここなんかをみると1962年で、最初期ともいえる時期。とはいえ、この7年後にもう濃縮小説の『残虐行為展覧会』が出るのだが。ともかく初期ということでストレートなSF短編集になっている。『時間都市』を読んでいたので、正攻…

『ニュー・ワールズ傑作選』

ブログ開始から1年が経ちました。当てもなく続けているような中、読んで頂いた方々には多謝多謝であります。 1年でいちおうメインとしていた読書感想は60冊ぐらい。新刊ないしそれに近いタイミングのものは14冊ほど。SF系は30冊ぐらいで約半分。もう少し新…

『双生児』 クリストファー・プリースト

ここのところのプリーストの翻訳作品は傑作ばかりだが、これは文句なく年間ベスト候補だろう。個人的には『 奇術師』を超えた(本作の方がまとまりが良いと思う)。 舞台は1999年3月からはじまる。戦争体験記を中心としたノンフィクション作家スチュアート・グ…

『世界最終戦争の夢』 H・G・ウェルズ

さすがSFの開祖。アイディアそのものはその後の手本となったものが多いので、驚くようなものはあまりない一方、科学的アイディアと怪奇とサスペンスが渾然一体となって現代SFが生まれてくるスリリングな瞬間を垣間見るような面白さがある。その後洗練さ…

『人間の手がまだ触れない』 ロバート・シェクリイ

これも『一角獣・多角獣』と並んで評判は良いのに長年にわたって手に入りにくい本であった。最近の短編集ブームでようやく復刊。期待も高まり読み始めたが・・・。 時の流れは残酷。一時代をなしたシェクリイの作風は洗練されている分、その後のフォーマッ…

『ひとりっ子』雑感

SFマガジンに載っていたものを何編か読んでいたので、ちょっと甘くみていたら解説通り結構歯ごたえがあり、正直まだ消化不良。ただ、「ふたりの距離」は文句なくおかしかった。一つになりたい、という恋人達の願望をまっすぐに実現しようとしてエスカレートし…